翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 84

ページ: 84

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きけよ。あきらかなる所(ところ)には王法(わうぼふ)あり。くらき所(ところ)には神霊(しんれい)あり。五戒(ごかい) のうち。もつとも偸盗(とうたう)をおもしとす。たとへ塵(ちり)一(ひと)すぢにても。盗(ぬすみ)を なして。豈(あに)よく罰(ばつ)をまぬかれんや。けがらはしき心底(しんてい)や。あさましき所存(しよぞん) やとて。左(ひだり)の手(て)にゑり首(くび)を持(もち)かへ。右(みぎ)のこぶしをふりあげて。頭(かうべ)をのぞみ。 つゞけ打(うち)に打(うち)たふし。且(かつ)怒(いかり)且(かつ)悲(かなし)み。あつき涙(なみだ)をおとしつゝ。かやうにきび しくいましめなば。もしくは心(こゝろ)もなほらんかと。親(おや)の慈非(じひ)こそせつなけれ。 文弥(ぶんや)はやがて越上(おきあが)り。あざみ笑(わら)ひていひけるは。貧乏者(びんぼうもの)の子(こ)とうまれ。 正直(しやうじき)にかまへては。とても出世(しゆつせ)はなりがたし。此(この)金(かね)にて官(くわん)をとれば。一生(いつしやう)は 安楽(あんらく)なり。さばかり呵(しかり)玉ひそと。きけばきくほどにくければ。歯(は)をかみ ならして声(こへ)をあららげ。大胆不敵(だいたんふてき)の今(いま)のことば。さら〳〵子(こ)とはおも はれず。天魔波旬(てんまはじゆん)の所行(しよぎやう)なり。親子(おやこ)の恩愛(おんあい)これまでなり。 七生(しちしやう)までの勘当(かんどう)ぞ。とくいづかたへもいでゆけとて。足(あし)をあげて踢(け)とばせば。 文弥(ぶんや)は財布(さいふ)を懐中(くわいちう)し。勘当(かんとう)うくれば。親(おや)でなし子(こ)にあらねば。長居(ながゐ)は 無益(むやく)とつぶやきつゝ。あたりを探(さぐ)りていでんとす。なむ右衛門 怒(いかり)にし のびず。走(はし)りよりて。又 踢(け)たふせば。おきあがりて。又(また)悪口(あつかう)す。悪口(あつかう)すれば なほ踢(け)たふし踢(け)たふせば。益(ます〳〵)悪口(あつかう)やまず。なむ右衛門いよ〳〵怒(いかり)。 頭(かうべ)肚(ひはら)の用捨(ようしや)なく。踏(ふみ)つけ〳〵ふみたふせば。文弥(ぶんや)は片息(かたいき)になりながら。 なほも悪口(あつかう)とゞまらざれば。なむ右衛門 怒気(どき)天(てん)にさかのぼり。刀(かたな)を すらりと抜手(ぬくて)も見せず。肩尖(かたさき)四五 寸(すん)きりこめば。呀(あ)と一声(ひとこゑ)たま ぎりて。うつぶしにたふれたり。たゝみかけてきらんとせしが。恩愛(おんあい) 千(ち)すぢの葛篭(つゞら)の緒(ひも)。足(あし)にまとひて背後(うしろ)のかたへ。ひきもどさるゝ こゝちするを。思ひきりて又(また)ふりあぐる剣(つるぎ)の下(した)に。妻(つま)いそ菜(な)はしり出(いで)。