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せまる二ツの難義(なんぎ)。臥竜(ぐわりやう)楠氏(なんし)の智謀(ちぼう)ありとも。のがるゝ道(みち)調(とゝのふ)すべは
あるべからず。藤浪(ふぢなみ)が所縁(ゆかり)の者(もの)に打(うた)れんと。かねて思ひし命(いのち)なれ
ども。かゝるきはには是非(ぜひ)もなし。若君(わかぎみ)を屓(おひ)まゐらせ。のがるゝたけは
のがれ見て。若(もし)かなはざるその時は。御腹(おんはら)をすゝめ申し。斬死(きりじに)するより
外(ほか)はなしと。ひとりごち。心(こゝろ)のうちにうなづきて。旧葛篭(ふるつゞら)のうちより。
一腰(ひとこし)を取出(とりいだ)し。行灯(あんどう)提(さげ)て。奥(おく)の一間(ひとま)に立(たち)いらんと。破(やぶ)れ紙門(ふすま)をさと
あくれば。盲児(めくらこ)の文弥(ぶんや)。財布(さいふ)のうちより。あまたの小判(こばん)を取(とり)いだ
して。手探(てさぐ)りにかぞへ居(ゐ)たるが。紙門(ふすま)のあく音(おと)におどろき。手(て)ばやく
背後(うしろ)にかくしたり。なむ右衛門 目(め)ばやく見つけて。いぶかりつゝいひ
けるは。いかに文弥(ぶんや)。見れば余程(よほど)の金(かね)を持(もち)たるが。いかなるゆゑにてその
金(かね)持(もち)しぞ。こゝへ出(いだ)して見せよといふ。文弥(ぶんや)いはく。これは師匠(ししやう)より
あづかりたる金(かね)なれば。親人(おやびと)なりとも見せがたしといふにぞ。なむ右衛門。
師匠(ししやう)なりとも。幼年(ようねん)の汝(なんぢ)に。大金(たいきん)をあづけおくべきいはれなし。
いかなるゆゑにてあづかりしと。問(とは)れて文弥(ぶんや)口(くち)こもり。いやこれは途中(とちう)
にて拾(ひろ)ひし金(かね)なり。あづかりしにはあらずと。詞(ことば)のあとさきそろはねば。
なむ右衛門ます〳〵あやしみ。途中(とちう)にてひろひしものを。かくしおくは道(みち)
にあらず。いづくにて拾(ひろ)ひつるぞ。実正(じつしやう)いへととひつめられてせんすべなく。
まことは此(この)金(かね)あづかりも拾(ひろ)ひもせず。道中(どうちう)の旅店(はたごや)に。とまり合(あは)せし旅人(たひゞと)の
金(かね)を。盗(ぬすみ)とりつるにて候と。聞(きゝ)てなむ右衛門あきれはて。ゑりくび
つかみて引(ひき)たふし。なにといふぞ。そはまことか真実(しんじつ)か。元来(ぐわんらい)なんぢ
孝子(かうし)にて。さある非道(ひどう)をおこなふべき性質(せいしつ)にあらずと。今(いま)のいま
まで思ひしが。在京(ざいきやう)のわづかの間(あひだ)に。さばかり心(こゝろ)のかはるものか。これよく