翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 83

ページ: 83

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せまる二ツの難義(なんぎ)。臥竜(ぐわりやう)楠氏(なんし)の智謀(ちぼう)ありとも。のがるゝ道(みち)調(とゝのふ)すべは あるべからず。藤浪(ふぢなみ)が所縁(ゆかり)の者(もの)に打(うた)れんと。かねて思ひし命(いのち)なれ ども。かゝるきはには是非(ぜひ)もなし。若君(わかぎみ)を屓(おひ)まゐらせ。のがるゝたけは のがれ見て。若(もし)かなはざるその時は。御腹(おんはら)をすゝめ申し。斬死(きりじに)するより 外(ほか)はなしと。ひとりごち。心(こゝろ)のうちにうなづきて。旧葛篭(ふるつゞら)のうちより。 一腰(ひとこし)を取出(とりいだ)し。行灯(あんどう)提(さげ)て。奥(おく)の一間(ひとま)に立(たち)いらんと。破(やぶ)れ紙門(ふすま)をさと あくれば。盲児(めくらこ)の文弥(ぶんや)。財布(さいふ)のうちより。あまたの小判(こばん)を取(とり)いだ して。手探(てさぐ)りにかぞへ居(ゐ)たるが。紙門(ふすま)のあく音(おと)におどろき。手(て)ばやく 背後(うしろ)にかくしたり。なむ右衛門 目(め)ばやく見つけて。いぶかりつゝいひ けるは。いかに文弥(ぶんや)。見れば余程(よほど)の金(かね)を持(もち)たるが。いかなるゆゑにてその 金(かね)持(もち)しぞ。こゝへ出(いだ)して見せよといふ。文弥(ぶんや)いはく。これは師匠(ししやう)より あづかりたる金(かね)なれば。親人(おやびと)なりとも見せがたしといふにぞ。なむ右衛門。 師匠(ししやう)なりとも。幼年(ようねん)の汝(なんぢ)に。大金(たいきん)をあづけおくべきいはれなし。 いかなるゆゑにてあづかりしと。問(とは)れて文弥(ぶんや)口(くち)こもり。いやこれは途中(とちう) にて拾(ひろ)ひし金(かね)なり。あづかりしにはあらずと。詞(ことば)のあとさきそろはねば。 なむ右衛門ます〳〵あやしみ。途中(とちう)にてひろひしものを。かくしおくは道(みち) にあらず。いづくにて拾(ひろ)ひつるぞ。実正(じつしやう)いへととひつめられてせんすべなく。 まことは此(この)金(かね)あづかりも拾(ひろ)ひもせず。道中(どうちう)の旅店(はたごや)に。とまり合(あは)せし旅人(たひゞと)の 金(かね)を。盗(ぬすみ)とりつるにて候と。聞(きゝ)てなむ右衛門あきれはて。ゑりくび つかみて引(ひき)たふし。なにといふぞ。そはまことか真実(しんじつ)か。元来(ぐわんらい)なんぢ 孝子(かうし)にて。さある非道(ひどう)をおこなふべき性質(せいしつ)にあらずと。今(いま)のいま まで思ひしが。在京(ざいきやう)のわづかの間(あひだ)に。さばかり心(こゝろ)のかはるものか。これよく