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れん。生(いき)わかれ死(しに)わかれと兄弟(きやうだひ)二道(にだう)にわかれども。死(し)は一且(いつたん)にしてなし安(やす)く。生(いき)て
諸人(しよにん)に面(おもて)をさらし。父(ちゝ)の汚名(おめい)をすゝがんとおぼしめす。姉(あね)うへの心底(しんてい)は。
又なしがたき孝行(かう〳〵)也。此(この)年来(としごろ)学(まな)び得(え)し。琵琶(びは)の一手(ひとて)を父(ちゝ)うへに。聞(きか)せ
申さで死(しす)るのは。心 残(のこ)りに候へば。かく手(て)を屓(おひ)ておぼつかなくははべれども。
一曲(いつきよく)つかふまつり候べし。冥途(めいど)の旅(たび)のおき土産(みやげ)。ながきかたみとおぼ
されて。おん聞(きゝ)くだされかし。母人(はゝびと)さまその琵琶(びは)こゝへといふにぞ。いそ菜(な)
泣(なく)〳〵琵琶(びは)とりいだしてあたふれば。わずかに年(とし)は十一 才(さい)の盲児(めくらこ)が。
縹木綿(はなだもめん)の肩(かた)あげに。血(ち)しほしたゝる疵口(きずくち)の。いたさをこらへて琵琶(びは)
かきならし。いと苦(くる)しげに声(こゑ)たてゝ。平家(へいけ)をぞかたりける
さるほどに。一の谷(たに)の軍(いくさ)やぶれしかば。武蔵(むさし)の国(くに)の住人(ぢうにん)熊谷(くまがへ)の
次郎 直実(はほざね)。平家(へいけ)の公達(きんだち)たすけ船(ふね)にのらんとて。みぎはの
かたへおちゆき玉ふらん。あつぱれよき大将軍(たいしやうぐん)にくまばやと
思ひ。ほそ道(みち)にかゝつて。みぎはのかたへあゆまする所(ところ)に。こゝに
ねりぬきに寉(つる)ぬふたる直垂(ひたゝれ)に萌黄薫(もゑぎにほひ)の鎧(よろひ)着(き)て。鍬(くは)
形(がた)打(うつ)たる甲(かぶと)の緒(お)をしめ。黄金作(こがねづくり)の太力(たち)をはき。二十四さいたる
きりうの矢(や)おひ。頻藤弓(しげどうゆみ)もち。連銭驄(れんぜんあしげ)なる馬(うま)に。金覆(きんぷく)
輪(りん)の鞍(くら)おいてのつたりける者(もの)一騎(いつき)。沖(おき)なる船(ふね)を目(め)にかけ海(うみ)へ
さつと打入(うちいれ)。五六たんばかりぞおよがせける
とうたふ唱歌(しやうが)も声(こゑ)くもり。ひくてもふるへてたしかならねど。さすが日(ひ)
来(ごろ)の手練(しゆれん)といひ。此世(このよ)のなごりと思ふから。苦(くる)しき息(いき)をはげませつゝ。三(さん)
重(ぢう)の甲(かう)をあげ。初重(しよぢう)の乙(おつ)に収(おさめ)て。うたひすしまたりければ。大絃(たいげん)は嘈(そう〳〵)
として急雨(きうう)のごとく。小絃(しやうげん)は切々(せつ〳〵)として私語(しご)のごとく。昭君(せうくん)馬上(ばしやう)にしらべ。