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楽天(らくてん)客舟(かくしう)に聞(きゝ)つるにも。はるかにまさりて哀(あわれ)なり。なむ右衛門 耳(みゝ)を
そばだてゝ聞(きゝ)居(ゐ)たるが。恩愛(おんあい)切(せつ)なる難(なげき)のうへに。かゝるかなしき調(しらべ)をきけ
ば。皮肉(ひにく)もはなるゝこゝちして。こらへかねてぞ泣伏(なきふし)ける。礒菜(いそな)。楓(かへで)も。もろ
ともに。涙(なみだ)にむせぶばかりなり。文弥(ぶんや)はなほも声(こゑ)ふりたて
熊谷(くまがへ)なみだをはら〳〵とながいて。あれ御覧(ごらん)候へ。いかにもして
たすけまゐらせんとは存(ぞんじ)候へども。味方(みかた)の軍兵(ぐんひやう)うんかのごとく
みち〳〵て。よものがしまゐらせ候はじ。あはれおなじうは直実(なほざい)が
手(て)にかけ奉りて。後(のち)の御孝養(ごけうやう)をもつかまつり候はんと申
ければ。只(たゞ)何様(なにやう)にもとう〳〵首(くび)をとれとぞのたまひける。くま
がへあまりにいとをしくて。いづくに刀(かたな)を立(たつ)べしともおほえず。目(め)も
くれ心(こゝろ)もきえはてゝ。前後(せんご)ふかくにおぼえけれども。さてしもあるべき
ことならねば。なく〳〵首(くび)をぞかいてげる
とうたふ声(こゑ)さへ。しだいによはり。ほど〳〵たえん琵琶(びは)の緒(お)に。かゝる血(ち)しほ
の疵口(きずくち)より。さとながるればあな苦(くる)しや。もはやうたふことかなひがたし。
これまでぞとて。琵琶(びは)をおき。此世(このよ)からさへ一条(ひとすぢ)の。杖(つゑ)をたよりの暗穴道(あんけつだう)。
死出(しで)の旅路(たびぢ)は殊更(ことさら)に。黒闇地獄(こくあんぢごく)に迷行(まよひゆき)。無目(むもく)の餓鬼(がき)と生(うま)れ出(で)て。
呵責(かしやく)をうけんは必定(ひつぢやう)なり。それを不便(ふびん)とおぼすなら。末期(まつご)の水を
さかしまに。逆縁(ぎやくえん)ながらお手(て)づから。香花(かうげ)を手向(たむけ)たまはれかし。我身(わがみ)のた
めの功徳(くどく)には。他人(たにん)の千 僧供養(ぞうくよう)より。はるかにまさり候べし。さらぬだに。
親子(おやこ)は一世(いつせ)のちぎりときくに。盲目(まうもく)のかなしさは。父上(ちゝうへ)母(はゝ)うへ。千万 年(ねん)のお
齢(よはひ)すぎて。冥途(めいど)へおはす事(こと)ありとも。お顔(かほ)を見る事(こと)かなはじと。思へばこれ
が三世(さんぜ)のわかれ。又あふことはあらじと思へば。いとゞかなしくなごりおし。父(ちゝ)うへは