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時頼(ときより)こそ臆(おく)しけれと。謗(そし)る者(もの)もあるべけれど。我(われ)今(いま)天下(てんか)の執権(しつけん)として。
其(その)政務(せいむ)に邪曲(じやきよく)あらば。神明(しんめい)いかでゆるし給はん。去(さ)あらば譬(たと)へ。鉄壁(てつへき)城(じやう)に隠(かく)るゝ
とも。犬(いぬ)猫(ねこ)のためにも害(がい)せらるべく。又(また)偏執(へんしう)疾妬(しつと)の心(こゝろ)をもて。我(われ)を仇(あだ)とし討(うた)んと
せば。皇天(かうてん)の冥助(めうぢよ)によつて剣刀(つるぎ)の林(はやし)に入(いる)といへども。更(さら)に我身(わがみ)に害(がい)あるまじ
尤(もつとも)我(われ)おもふ子細(しさい)あれば。此(この)騒乱(さうらん)明日迄(あすまで)にはおよふべからず。少弐(せうに)どのにも改服(かいふく)
あつて。早々(さう〳〵)御所(ごしよ)へ昵近(ちつきん)し。非常(ひじよう)の警衛(けいご)しかるべし。又(また)渋谷(しぶや)の一党(いつとう)も早(はや)
く阡陌(まち〳〵)に徘徊(はいくはい)し。物(もの)に早(はや)まる若殿原(わかとのばら)。または人民(じんみん)の騒動(さうどう)を鎮(しづ)め申さる
べしと。理非(りひ)分明(ふんめう)に演舌(ゑんぜつ)あれば。双方(さうほう)の従卒等(じゆうそつら)。互(たが)ひに我身(わがみ)をかへり見て。
密(ひそか)に弓箭(ゆみや)を後(うしろ)におし隠(かく)し。剣刀(けんとう)を鞘(さや)に納(をさむ)るも可笑(をかし)。少弐(せうに)従者(じゆうしや)に命(めい)じて。
挟箱(はさみばこ)より狩衣(かりぎぬ)を取出(とりいだ)さしめ。直(たゞち)に甲冑(かつちう)を解(と)き改服(かいふく)し。我(われ)執権(しつけん)の下知(げぢ)
をも俟(また)ず。漫(みだ)りに兵具(へうぐ)を帯(たいし)たるは。某(それがし)が過(あやまり)なり。後日(ごしつ)に怠状(たいでう)をさし出(いだ)し
候はん。時頼(ときより)打笑(うちゑ)み。危急(ききう)に及(およ)んでは計(はか)らざるの過(あやまち)も有(ある)ものなり。更(さら)にこれを