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独身(ひとりみ)の悲(かな)しさは誰(たれ)かこれを知(し)るものなく。漸(やう〳〵)其(その)夜明(よあけ)てのち。合壁(となり)の者(もの)これ
を見付(みつけ)。俄(にはか)に驚(おどろ)き騒(さわぎ)つゝ。早速(さつそく)官(くはん)へ訴(うつた)ふれば。則(すなはち)鑑察使(けんし)歩卒(あしがる)を将(つれ)て
行向(ゆきむか)ひ。その始末(しまつ)を点検(ぎんみ)し給ふといへども。原(もと)より趣意(しゆい)は知(し)るべうも非(あら)ず。何分(なにぶん)
盗賊(とうぞく)の仕業(しわざ)に定(さだま)る。しかるに里人等(さとびとら)。又(また)俄(にはか)に東西(とうざい)に走(はし)り。軈(やか)て里吏(むらやく)鑑(けん)
察使(し)の前(まへ)に出(いで)て申は。即今(たゞいま)この西(にし)の方(かた)。済田何某(さいたなにがし)と申/者(もの)の軒下溝(のきしたのみぞ)の中(なか)
に。脇差(わきざし)一腰(ひとこし)泥中(でいちう)に埋(うづ)みたるを見付(みつけ)たりと申。さらばとて鑑察使(けんし)行(ゆき)むかふて
引上(ひきあ)げ。水(みつ)以(も)て濯(そゝ)ぎ。鞘(さや)を離(はな)ち見るに。鮮血(せんけつ)いまだ滴々(したゝり)【滾々ヵ】しかば。是(これ)ぞ彼女(かのをんな)
を害(がい)したる事/顕然(げんぜん)たり。抑(そも)何者(なにもの)の差料(さしれう)やと。使(けんし)熟覧(じゆくらん)なすに。刃(やいば)の匂(にほ)ひ
柄前(つかまへ)の荘飾(こしらへ)。天晴(あつはれ)の差料(さしれう)にて。商工(せうこう)黎民(ひやくせう)の所持(しよぢ)にはあらず。所(ところ)の者(もの)見識(みしら)
ざるやと問(と)ふに。知(し)る者(もの)ありて。是(こ)は則(すなはち)済田(さいだ)が所持(しよぢ)の佩刀(わきざし)に髣髴(さもにたり)。ことに
縁頭(ふちかしら)に金無垢(きんむく)の四目結(よつめゆひ)こそ。則(すなはち)渠(かれ)が所紋(でうもん)なれ。旁(かた〴〵)いぶかしと額(ひたい)に
八字(はちじ)を顕(あら)はす。使(けんし)はこれを聞(きく)と等(ひと)しく。歩卒(ほそつ)に夫(それ)と目知(しらすれ)ば。直(たゞち)に済田(さいだ)を