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者(もの)申は。某(それがし)も同然(どうぜん)にて。太刀(たち)ふり上(あく)るとせしに。眼(まなこ)眩(くらん)で打倒(うちたふ)れしに。壱人の僧(さう)
某(それがし)を白眼(にら)まへ。女(をんな)を害(がい)し調度(てうど)を掠(かすめ)し者(もの)は。済田(さいだ)にあらずして。此(この)見物(けんぶつ)の
うちに紛(ま)きれ居(お)る。早(はや)く召捕(めしとり)嘉伝治(かてんぢ)を助(たす)くべしといふ声(こゑ)。今(いま)に耳根(みゝね)に残(のこ)り
たりといふ。鑑察使(かんさつし)済田(さいだ)を見るに。斯(かゝ)る騒動(さうどう)も更(さら)にしらずや。只(たゞ)目(め)を閉(とぢ)
て眠(ねむ)るかごとし。官人(くはんにん)済田(さいだ)を叱(しつし)て使(し)の前(まへ)に居(す)へ。汝(なんぢ)先刻(さき)よりの始末(しまつ)をし
る哉(や)。済田(さいた)此とき面(おもて)を上(あ)げ。四面(あたり)を詠(なが)めて打驚(うちおどろ)き。我(わが)生(せい)いまた此世(このよ)に
あり哉(や)。あら有難(ありがた)や尊(とふと)やと。数行(すこう)の涙(なみだ)にむせふ容(さま)。官人(くはんにん)も由縁(ゆゑ)ある
事(こと)と察(さつ)し。其故(そのゆへ)を問(と)ふに。済田(さいだ)謹(つゝしん)で。今(いま)は何(なに)をか包(つゝ)み申さん。我(われ)曽(かつ)て切(きり)
通(とふし)の地蔵尊(ちさうそん)を信(しん)じ。常(つね)に日参(につさん)怠(おこた)らざりじか。此(この)暁天(あかつき)に獄舎(ごくしや)の中(うち)へ。老僧(らうさう)
一人(いちにん)来(きた)り。朕(われ)は汝(なんぢ)が常(つね)に信(しん)ずる。切通(きりどふ)しの地蔵(ぢざう)なり。今度(こんど)汝(なんぢ)無冤(むじつ)に陥(おちいり)て。
既(すで)に刑罪(けいはつ)に処(しよ)せられんとす。朕(われ)汝(なんぢ)を助(たす)くべし。死地(しち)に至(いた)らば余念(よねん)をおもはず。
一向(いつこう)に朕(わが)名(な)を称(とな)ふべし。必(かならず)生(せう)を全(まつた)ふすべしと。告(つげ)給ふと思(おも)ひしは南柯(なんか)の夢(ゆめ)