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沖(おき)の明神(めうしん)破損(はそん)に及(およ)び。寝殿(しんでん)空(むな)しく草露(さうろ)に傾(かたぶく)が故(ゆへ)。主人(しゆじん)これを修造(しゆざう)
し給ひ。其務(そのかゝり)を某(それがし)に命(めい)じ給ふ。折(をり)から其奴(そやつ)は彦五郎(ひこごらう)と申て。則(すなはち)宮津(みやづ)の者(もの)。
これが日雇(ひよう)仕(つかまつ)り候しが。一日(あるひ)社殿(しやでん)の荘厳(さうごん)。又/神宝(じんはう)を奪(うば)ひ。忽(たちまち)亡命(かけおち)して
行方(ゆきがた)しれず。故(かるがゆへ)に迷惑(めいわく)某(それがし)に帰(き)して。暫(しばら)く蟄居(ちつきよ)を命(めい)ぜらる。其後(そのご)不測(ふしぎ)
に。神宝(しんはう)は売物(うりもの)に出(いで)しを。重経(しげつね)贖(あがなひ)得(え)て。元(もと)の如(ごと)く神庫(しんこ)に納(おさ)め。其/歓(よろこび)にと
て重経(しげつね)が。格別(かくべつ)の仁慈(いつくしみめぐみ)を以(も)て。某(それがし)が失錯(あやまち)は免(めん)ぜらるれど。兼(かね)て渠奴(きやつ)が行方(いきかた)を
探(さぐ)り候/処(ところ)。豈計(あにはか)らんや此地(このち)に匿(かくるゝ)とは。即今(たゞいま)米屋町(こめやまち)にて出会(いであひ)しに。渠奴目(きやつめ)
疾(はやく)某(それがし)を見て。逸足出(いちあしだ)し逃駆(にげはし)り。此所(このところ)へ馳込(はせこみ)しを。己(おのれ)遁(のが)さし。逃(にが)さじと。思(おも)ふ
心(こゝろ)の一図(いちづ)にて。御所(ごしよ)とも更(さら)に弁(わきま)へず。駆込(はせこみ)て推参(すいさん)無礼(ぶれい)恐(おそ)れ入奉(いりまつ)ると言上(ごんぜう)
す。猶(なほ)彦五郎(ひこごらう)を糺問(きつもん)するに。藤太(とうだ)申に相違(さうゐ)無之(これなし)と。さし俯(うつぶき)て罪(つみ)を俟(ま)つ。
時頼(ときより)則(すなはち)彦五郎(ひこごらう)が無頼(ぶらい)。論(ろん)ずる処(ところ)なしと。死罪(しざい)を処(しよ)せられ。藤太春(とうだはる)
常(つね)を召出(めしいだ)し。汝(なんぢ)一旦(いつたん)の怒(いかり)によつて。彦(ひこ)五郎を討捨(うちすてん)とせし段(だん)尤(もつとも)なれど。御所(ごしよ)