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長(と)となりても殊(こと)に親(した)しく交(ましは)りける。左(さ)るから時頼(ときより)の母公(ぼこう)へも常(つね)に親(した)しく
参(まゐ)られけり。或時(あるとき)月次(つきなみ)の嘉祝(かしゆく)申さんとて。松下(まつのした)へ伺公(しこう)せしに居間(ゐま)に
通(とふ)さしむ。義景(よしかげ)何心(なにごゝろ)なく掾側(えんかは)にいたるに。豈計(あにはか)らん尼公(にこう)手(て)づから障子(しやうじ)
の小破(こやれ)を綴(つゞ)り張居(はりゐ)給ふ。義景(よしかげ)先(まづ)今日(こんにち)の嘉祝(かしゆく)を申上。さて申けるは。
尼公(にこう)いかなれば。此等(これら)の業(わざ)自(みづ)から手(て)を下(くだ)し給ふべき。侍女(じちよ)小侍(こざふらひ)ともゝ
仕(つかふまつ)るべし。殊更(ことさら)障子(しやうじ)の斑(まだら)々なるは。見易(みやす)からぬものにて候。尽(こと〴〵)く張(はり)かへさ
しめ給へかし。禅尼(ぜんに)眉(まゆ)をよせて。足下(そのもと)は諸侯(しよこう)の家(いへ)に生(うま)れて。殊(ことに)今(いま)天(てん)
下(か)治(をさま)る御代(みよ)なるから。左覚(さおほ)しつるも断(ことは)りなり去(さり)ながら。我子(わがこ)時頼(ときより)既(すて)に
天下(てんか)の執権(しつけん)として。人民(じんみん)までの尊敬(そんきやう)を請(う)け。何(なに)不足(ふそく)ありとも思(おも)ひ侍(はべ)らず。
若哉(もしや)此(この)機(き)に乗(じやう)じて。驕奢(けうしや)の志(こゝろざし)や侍(はべ)らんかと。旦暮(あけくれ)心(こゝろ)くるし。せめて
時頼(ときより)が冥伽(めうが)のため。愚息(ぐそく)に更(かは)りて此(この)尼(あま)が心(こゝろ)ばかりに質素(しつそ)を守(まも)らば
やと。常(つね)に用(よう)なき此(この)尼(あま)が。手(て)に合(あ)ふ事は勤(つとむ)るなり。又/此(この)障子(せうじ)の破(やぶれ)をも