Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション3

. Japonais 180-181 - 翻刻

. Japonais 180-181 - ページ 136

ページ: 136

翻刻

良(やゝ)ありて一陣(いちじん)の風(かせ)につれ。四方(よも)に散乱(さんらん)なし行方(ゆくがた)をしらず。重々(かさね〳〵)の珍(ちん) 事(じ)に人民(じんみん)恐怖(けうふ)して昼夜(ちうや)易(やす)き心なく。時頼公も心神(しん〴〵)をいため。陰陽(おんやう) 故実家(こじつか)に勘文(かんもん)を書(かゝ)しめらるゝ。折柄(をりから)陸奥(むつ)の国守(こくしゆ)より注進(ちうしん)せるは。 去(さん)ぬる三月十一日。陸奥国(むつのくに)津軽(つがる)が浦(うら)に。ふしぎの大魚(たいきよ)流(なが)れより。その形(かたち) 頭(かしら)は魚(うを)にして手足あり全身(ぜんしん)か魚鱗(うろこ)の重りたるが。原(もと)より死体(したい)にて浮(うき)上 る。これが死せるによりてか。海水(かいすい)こと〴〵く血(ち)になりて。紅(くれなひ)の波(なみ)岸(きし)をあら へば。千入(ちしほ)にそむる苔(こけ)の色(いろ)。藻(も)くずに交(まじ)りて錦(にしき)のごとく。誠(まこと)に前代未聞(せんだいみもん)の 怪事(かいじ)。諸人(しよにん)驚怖(きやうふ)すと注進(ちうしん)す。時頼いち【「いち」は「いよ」ヵ】〳〵驚(おどろ)き。其(その)先蹤(せんじう)をたづね らるゝに古老(こらう)の曰(いはく)。文治五年の夏(なつ)此魚(このうを)浮(うかみ)上つて死(し)す。其ころ泰衡(やすひら) 滅亡(めつほう)の事(こと)。建仁(けんにん)三年の夏(なつ)。秋田(あきた)の浦(うら)に怪魚(くはいぎよ)死(し)して波(なみ)に洋々(ゆられ)て磯(いそ)に あがる。源/頼家(よりいへ)御/事(こと)まし〳〵建保(けんはう)元年四月に大/魚(うを)出現(しゆつけん)して波上(はしやう)に 死(し)す。和田義盛(わたよしもり)滅亡(めつほう)に及ぶ此度(このたび)の怪魚(くはいぎよ)も動乱(どうらん)の兆(きさし)御/慎(つゝし)みあるべき