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厚(あつ)くし給ふ。されども泰村(やすむら)が叛心(ぎやくしん)日夜(にちや)に増長(さうてう)し今は将軍(せうぐん)が命令(めいれい)。執(しつ)
権(けん)が下知(げち)といふ共/更(さら)に謹承(きんしやう)の心なく。我意(がゐ)の事蹟(ふるまひ)多かりしかば。自然(しぜん)に
人口(じんかう)喧(かしま)しく。又も動乱(とうらん)近(ちかき)にありと。人心(じんしん)又/騒(さは)がしく。いさゝか穏(おだやか)ならざりけり。時(とき)
頼(より)これを患(うえ)へ。いかにもして彼(かれ)が心を宥(なだ)め。世(よ)の物(ぶつ)怱(さう)【忩】を治(おさ)めばやと。泰村(やすむら)が
次男(じなん)駒石(こまいし)丸といへるを。時頼が養子(ようし)たるべき約諾(やくだく)を做(なす)といへども。面(おもて)には歓(くはん)
喜(き)の色(いろ)を見すれども。内謀(ないぼう)いかで止るべき。密(ひそかに)武具(ぶぐ)兵器(へいき)の設(まうけ)とり〴〵なり。
于爰(こゝに)此頃(このころ)将軍頼嗣公(せうぐんよりつぐこう)の御台所(みだいところ)御不例(ごふれい)にて。典医(てんゐ)神薬(しんやく)霊剤(れいざい)を
捧(さゝ)げ。諸山(しよざん)大法(だいほう)秘法(ひほう)を尽(つく)すといへども。天寿(てんじゆ)けふに止(とゞ)まりけん。五月十三日
の暁(あかつき)。十八歳を一期(いちご)とし。艸頭(さうとう)の露(つゆ)と卒去(そつきよ)し給ふ。抑(そも〳〵)此/御台(みたい)は。故修理亮(こしゆりのすけ)
時氏(ときうじ)の女(むすめ)にして。則(すなはち)時頼の妹(いもと)なれば。殊更(ことさら)北条一族(ほうでういちぞく)の残念(ざんもん)【ざんねんヵ】。いふべうも有
らず。是(こゝ)によつて。時頼(ときより)も着服(ちやくふく)なしたまひ。則(すなはち)三浦(みうら)泰村か館(やかた)の一室(いつしつ)に。今日(こんにち)
時頼/引移(ひきうつ)り。着服(ちやくぶく)の暇(いとま)籠(こも)り給ひ。呪経(しゆけう)弔礼(てうらい)の外(ほか)はなかりけり。一族(いちぞく)も