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て。夫(それ)さへ隙(ひま)あらば逃(のが)れんの容静(ありさま)。迚(とて)も今朝(こんてう)打出(うちいで)ん事(こと)。難(かた)かるべしと告(つげ)
ければ。泰村(やすむら)は大にいかり。頼甲斐(たのみがひ)なき輩(ともがら)かな去(さり)ながら。軍(いくさ)は勢(せい)の多少(たせう)によらず
木曽義仲(きそよしなか)は三千の兵士(へい)を以(も)て。平家(へいけ)三万/騎余(ぎよ)を追崩(おひくづ)し。漢(かん)の高祖(かうそ)三千
の困兵(こんへい)を以(もつ)て。項羽(こうう)が百万(ひやくまん)の甲兵(かうへい)を討(う)つ。其外(そのほか)和漢(わかん)に先蹤(せんしう)多(おほ)し。一戦(いつせん)
にも及(およ)ばずして。敵(てき)の多勢(たせい)に恐怖(けうふ)なし。逃設備(にげじたく)する臆病武者(おくべうむしや)。あつて用(よう)なく
無(なく)て事/欠(かゝ)ず。軍(いくさ)は時(とき)の運(うん)なるぞと。残兵(ざんへい)を勇(いさむ)れども。不果敢(はか〴〵しく)も見えざ
りければ。日頃(ひごろ)工(たく)みに巧(たく)みし謀計(ばうけい)も。一夜(いちや)のうちに齟齬(くひちがいし)かば。流石(さすが)の泰村(やすむら)も
無為便(せんすべなく)。急(きう)に邪計(じやけい)をめぐらしつ。心利(こゝろきゝ)たる郎等(らうどう)。小平太行宗(こへいだゆきむね)といへるに。
使命(こうじやう)を含(ふく)めて北条亭(ほうてうてい)につかはす。時頼(ときより)館内(やかた)に通(とほ)さしめ面会(めんくはい)して使旨(こうぜう)
を聞(きく)に。泰村(やすむら)が一類(いちるい)毛頭(もうとう)野心(やしん)を存(ぞん)せず。然(しか)れども他人(たにんの)讒訴(ざんそ)によつて。我等(われら)
一類(いちるい)を亡(うしなは)るべき。風聞(ふうぶん)区々(まち〳〵)につき。拠(よぎ)なく一類(いちるい)防禦(ばうぎよ)仕る処(ところ)。夜前(やぜん)近江氏(あふみうぢ)
信(のぶ)を以(も)て。更(さら)に隔心(きやくしん)無之由(なきのよし)仰越(おほせこ)され。先以(まづもつて)安堵(あんど)の思(おも)ひを做(な)し。今朝(こんてう)は