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翻刻
も。終(つひ)には渠(かれ)が掌握(しやうあく)の下(しん)に墜(おち)ん。不如(しかず)今般(こんど)の費(ついへ)に乗(でう)し。三浦一家(みうらいつけ)を亡(ほろほ)
さんには。所謂(いはゆる)先刻(さきんずるとき)制(せい)し後刻(おくるときは)制(せい)せらる。左(さ)れども無名(むめう)の軍(いくさ)せは私(わたくし)の偏執(へんしう)
遺恨(ゐこん)に落(おち)て。亦(また)止事(やむこと)を得(え)ず。我家名(わがかめい)失(しつ)せん事(こと)も量(はかり)がたしと。種々(さま〳〵)思慮(しりよ)
をめぐらして。専(もつぱ)ら時宜(じき)を窺(うかゞ)ひける。于爰(こゝに)三浦(みうら)の家臣(いへのこ)。伊沢五郎(いざはごろう)といふ
者(もの)あり。勇武(ゆうぶ)人(ひと)に超(こえ)て。一騎当千(いつきたうぜん)の将(もの)といへども。性質(うまれつき)好色(こうしよく)の癖(くせ)ありて。
間(まゝ)狼藉(らうせき)も多(おほ)かりしが。城介(ぜうのすけ)が腹心(ふくしん)の郎等(ろうどう)。久田藤五郎(ひさだとうごらう)といへる者(もの)とは。
別(へつし)て親(した)しく交(まじは)りしに。或(ある)とき藤五郎(とうごろう)伊沢(いざは)を招(まね)き。酒(さけ)を酌(く)みて闌(たけなは)に及(およ)ぶ。
頃(ころ)。風姿(ふうし)容色(ようしよく)の一婦人(いつふじん)。瓶子(へいし)を携(たづさ)へすゝみ出(いで)。媚(こび)を献(けん)じて酒(さけ)をすゝむ。伊(い)
沢(ざは)はこれか為(ため)に数盃(すはい)を傾(かたぶ)け。十二三分(しうにさんぶん)の酔(ゑい)を尽(つく)し。目(め)を斜(なゝめ)にして一向(ひたすら)に。
婦人(ふじん)の顔(かほ)のみ打守(うちまも)り。艶言(ゑんげん)を吐(は)き恋情(れんじやう)を通(つう)す。女(をんな)も目元(めもと)に情愛(じやうあい)を
含(ふく)み。憎(にく)からぬ色(いろ)を見するに。五郎/今(いま)は包(つゝむ)に堪(たえ)かね。藤五郎にむかひ更(さら)に
一礼(いちれい)し。今宵(こよひ)の燕楽(ゑんらく)謝(しや)するに物(もの)なく。加之(しかのみならず)秉酌(へいしやく)の淑女(しゆくぢよ)を賜(たま)ふ。これに過(すぎ)