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あり。これ人(ひと)に告(つく)べきならねど。汝(なんぢ)が疑念(ぎねん)を晴(はら)さんため。密(ひそか)に語(かた)り聞(きか)すなり。猶(なほ)
これにても疑(うたが)ふやと。女(をんな)の肩(かた)を丁(てう)と打(うて)ば。是(これ)や相図(あいづ)と成(なし)たりけん。豈(あに)計(はか)らんや
四隅(よすみ)より。力者(ちきしや)数十人(すじうにん)込入(こみいり)て。伊沢(いざは)が手(て)どり足(あし)を取(とり)。折重(をりかさ)なつて起(おこ)しも立(たて)ず。
高手小手(たかでこで)に紲(いましめ)たり。伊沢(いざは)は酩酊(めいてい)十二分(じうぶん)の上(うへ)。女(をんな)がため前後(せんご)を忘(ばう)じ。心神(しん〴〵)
恍惚(くはうこつ)たる折(をり)からなれば。左(さ)ばかりの強勇(きやうゆう)といへども。手(て)も無(な)くやみ〳〵生捕(いけとら)れ
けり。此旨(このむね)景盛入道(かげもりにうだう)へ直(たゞち)に注進(ちうしん)なすと其(その)まゝ。須破哉(すはや)時(とき)こそ来(きた)りけり。
敢(いざ)うち立(たゝ)んと入道景盛(にうだうかげもり)。鎧(よろひ)とつて一縮(いつしゆく)す。城介義景(じやうのすけよしかげ)。男泰盛(なんやすもり)。兼(かね)て
期(ご)したる事(こと)なれば。承(うけたまは)るといふまゝに。物具(ものゝぐ)犇々(ひし〳〵)と固(かた)めつゝ。馬引(うまひき)よせてゆらり
と乗(の)れば。大曽根左衛門尉長泰(おほそねさえもんのじやうながやす)。武藤(ぶどう)左衛門/尉景頼(ぜうかげより)。立花薩摩十郎(たちばなさつまじうらう)
助宗(すけむね)已下(いか)の一族(いちぞく)一門(いちもん)。今宵(こよひ)密(ひそか)に集会(しうくはい)し。久田(ひさだ)が音(おと)づれを待居(まちゐ)たれば。
各(おの〳〵)家臣(かしん)郎従等(らうじゆうら)。都合(つがう)その勢(せい)三百/余騎(よき)。其夜(そのよ)も既(すで)に明(あけ)近(ちか)く。甘縄(あまなは)の
館(やかた)を打立(うちたち)て。同(おなじく)小路(こうぢ)を東(ひがし)に打(うた)せ。若宮大路(わかみやおほぢ)。中下馬(ちうげば)の橋(はし)にいたり。鶴岡(つるがおか)の