← 前のページ
ページ 168 / 491
次のページ →
翻刻
て。射立(いたつ)る箭先(やさき)。篠(しの)をみだすが如(ごと)くにて。勇(いさ)み立(たつ)たる先手(さきて)の軍兵(ぐんびやう)。浮足(うきあし)に成(なつ)て
見えたりける。諏訪入道(すはにうだう)大(おほひ)に憤(いか)り。斯(かく)■(べん)々(〳〵)【経々ヵ軽々ヵ便々ヵ】と軍(いくさ)せば。何時(いつ)を果(はて)ともしるべからず。
凡(およそ)軍(いくさ)は是做(こうする)ものぞ。若殿原(わかとのばら)の手本(てほん)にせよと。大太刀(おほだち)真向(まつかう)にさしかざし。真先(まつさき)に
馬(うま)を蒐出(かけいだ)し。悪声(あくせい)を発(はつ)して敵中(てきちう)に突(つい)て入(いり)。能登仲氏(のとのなかうぢ)を一刀(いつとう)に切(きり)て落(おと)し。
返(かへ)す刀(かたな)に郎等(らうとう)弐人(にゝん)。右(みぎ)と左(ひたり)へ切倒(きりたを)し。当(あたる)を幸(さいわ)ひ切(きり)まくる。信濃行忠(しなのゆきたゞ)これをみて。
いかて入道(にうどう)に劣(をと)るべきと。大長刀(おほなぎなた)を水車(みづぐるま)に廻(まは)し。群(むら)がる兵(へい)に殺入(さつにう)し。向(むか)ふ処(ところ)の佐原(さわら)
十郎(じうろう)を同(をな)じく一刀(いつたう)に薙落(なぎおと)し。更(さら)の人馬(しんば)の嫌(きら)ひなく。薙立(なぎたて)〳〵切(きり)まくる。両大(れうたい)
将(しやう)の其勢(そのいきをひ)宛(あだか)も二王(にわう)の荒廻(あれまは)るが如(ごと)く。佐原(さわら)左衛門は眼前(かんぜん)に。我子(わがこ)を討(うた)れし
当(とう)の敵(てき)。信濃(しなの)を討(うた)んと乱軍(らんぐん)に紛(まぎ)れ。東南西北(かなたこなた)と付(つけ)ねらふ。諏訪入道(すはにうたう)
これを見て。我子(わがこ)を討(うた)れ親(おや)の身(み)の。いつまで修羅(しゆら)に迷(まよ)ふらん。坊主(はうす)天窓(あまた)の
役目(やくめ)には。引導(いんどう)わたして成仏(じやうぶつ)させんと。太刀(たち)振上(ふりあげ)て駈向(かけむか)ふ。泰連(やすつら)も大太刀(おほだち)
かざし。互(たかひ)に挑(いと)み戦(たゝかひ)しが。終(つひ)に入道(にうたう)に討(うた)れけり。大将(たいしやう)討(うた)れて其郎等(そのらうとう)。いかでか