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倒(たをれ)ながら行景(ゆきかげ)は。持(もつ)たる棒(ばう)にて打払(うちはら)ふに。手負(ておひ)ながらも大力(たいりき)に打/払(はら)はれ
十丈(じうでう)ばかり中天(ちうてん)に打(うち)上られ。落(おつ)る処(ところ)の岩角(いはかど)にて。頭(かしら)を砕(くだ)かれ死(しゝ)たりける
行景(ゆきかげ)も痛手(いたで)ながら。これを見て莞爾(につこ)と笑(わら)ひ。立もあからず死たれば。敵(てき)も
味方(みかた)も大力(だいりき)を見て。惜(をし)み思(おも)はぬはなかりけり城主(ぜうしゆ)権助秀胤(ごんのすけひでたね)は頼切(たのみきり)たる
郎等(らうどう)を討(うた)せて。いつまでか罪作(つみつく)らん。殊(こと)に四方(しはう)に焚(たき)たる火勢(くはせい)早(はや)消々(きえ〴〵)
と成ければ。寄手(よせて)は。荒手(あらて)を以(も)て攻寄(せめよせ)〳〵。己に城門(じやうもん)を破(やぶ)らんとす。軍(いくさ)も
今は是までと嫡子(ちやくし)式部大輔時秀(しきぶのたゆうときひで)。次男(じなん)修理亮政秀(しゆりのすけまさひて)。三男(さんなん)左衛門尉(さゑもんのせう)
泰秀(やすひで)。四男/六郎景秀等(ろくろうかけひでら)。一室(いつしつ)に集(あつま)り互(たがひ)に名残(なごり)の酒宴(しゆえん)なし。館(やかた)の四方(しはう)
に火をかけつゝ。猛火(めうくは)のうちに座(ざ)を卜(しめ)て。心静(こゝろしづか)に自害(じがい)せり。されども火勢
燼(さかん)に燃上(もえあか)り。焰(ほのふ)天(てん)を焦(こが)しければ。寄手(よせで)近付(ちかづく)ことを得(え)ざるほどに一族(いちぞく)の
屍(かばね)こと〴〵く焼失(やけうせ)て。首(くび)一級(いつきう)も得ざりけり。寄手(よせて)やう〳〵火(ひ)を鎮(しづ)め。中務(なかつかさ)
入道(にうだう)暫(しばら)く城(しろ)を預(あつか)り。大須賀(おほすが)諸勢(しよせい)を引具(ひきぐ)して。鎌倉(かまくら)にこそ帰りけれ