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訴訟(そせう)あらんには。評定所(ひやうぢやうしよ)へ参(まい)るべし。無礼至極(ぶれいしごく)立去(たちさ)れやつと罵(のゝし)りつゝ。立(たち)
よりて引立(ひきたて)んとす。時頼(ときより)這奴(こや)〳〵と声(こへ)かけ給ひ。公用(こうよう)登城(とじやう)の折(をり)からは格外(かくへつ)。私(わたくし)
の物詣(ものまうで)に。訴訟(そせう)を空(むなし)くなさんこと。其理(そのことはり)なきに似(に)たり。苦(くる)しからず近(ちか)く参(まい)れと。
童(わらは)を馬前(ばぜん)に召(めし)よせて。其訴(そのうつたへ)の趣意(しゆい)を問(とふ)に。小童(わらは)砂上(しやしよう)に頓首(とんしゅ)して。私(わたくし)■(ぎ)【儀ヵ】
は本国(ほんこく)但馬(たじま)の者(もの)にて。原田何某(はらだなにがし)といへる者(もの)の子(こ)。小次郎(こしろう)と申/者(もの)にて。父(ちゝ)は夙(とく)
死去(しきよ)仕り母(はゝ)の手(て)に養育(よういく)せられ候。しかるに私家(わがいへ)に世々(よゝ)持伝(もちつた)へたる太刀(たち)一振(ひとふり)
有(あつ)て。尤(もつとも)其(その)所以(ゆゑ)は存(そん)じ不申/候得共(さふらへとも)。大切(たいせつ)の品(しな)と申/伝(つた)え候/処(ところ)に。三(さん)ヶ(が)年(ねん)已前(いぜん)。
同国(どうこく)の浪士(らうし)。島田大蔵(しまだたいぞう)と申もの。此(この)太刀(たち)を盗(ぬす)み亡命(かけおち)仕たり夫(それ)より已来(このかた)
渠(かれ)が在所(ざいしよ)を窺(ひそか)に尋(たづね)索(さぐ)る処(ところ)に。当国(とうごく)鶴岡辺(つるがおかへん)に住(すめ)るよしを承(うけたまは)るまゝ。
夜(よ)を日(ひ)に次(つい)て馳登(はせのぼ)り。今朝(こんてう)当所(とうしよ)に着(ちやく)仕(つかまつ)り則(すなはち)猶(なほ)も住所(ぢうしよ)を尋(たづ)ねて
取返(とりかへ)さんとは存(ぞんじ)候得共。人(ひと)の品(しな)を盗取(ぬすみとり)国遠(たちのく)ほどの者。容易(やうい)には戻(もど)し申
間敷(まじく)。却(かへつ)て拐児(かたり)よ刁民(もがり)の名(な)を負(お)ひ。取返(とりかへ)さゞる事(こと)やあらん。所詮(しよせん)