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多(おほき)に土百姓(どびやくしやう)の。持伝(もちつた)えたる鍋掻(なべこそけ)盗取(ぬすみとつ)て何為(なにせん)や。察(さつ)する処(ところ)小童(こわつば)
ながら。斯(かゝ)る奸曲(かんきよく)を申/立(たて)。多少(たせう)の償財(まいない)を取(と)らんとするかと少(すこ)しも辞(ことば)に
淀(よどみ)なく。弁舌(べんぜつ)瞠々(だふ〳〵)と答(こた)へしかば。小次郎は頭(かしら)を低(たれ)て答(こた)へをなさず。時頼(ときより)
小次郎にむかひ。今(いま)彼(かれ)が陳(ちん)ずる処(ところ)。いさゝか偽(いつはり)有(あり)とも覚(おほ)えず。定(さため)て訴訟(うつたへ)は
人違(ひとちかい)なるべし。小次郎/頭(かしら)を下(さ)げ。昨日(きのふ)も申上しごとく。太刀(たち)を奪(うば)はれしは。
島田大蔵(しまだだいざう)と申/者(もの)に相違(さうい)なく。しかるに彼者(かのもの)は若州(わかさ)の産(さん)にて。津国(つのくに)に
成長(ひとゝなら)れし由(よし)。承(うけたまはり)て不審(ふしん)に候。併(しかし)彼者(かのもの)。元来(もとより)嶋田大蔵(しまたたいざう)と申候/哉(や)。または
後(のち)に改名(かいめい)いたし候/哉(や)。御聞(おんきゝ)被下度(くだされたく)と申。大蔵(だいざう)大(おほひ)に笑(わら)ひ。湿過度(しつくどき)問(とい)ごと哉
と打呟(つふや)きて時頼(ときより)に向(むか)ひ。只今(たゞいま)渠(かれ)に言聞(いひきけ)たるごとく。若州(わかさ)の産(うまれ)にし
て。旧名(もとのな)は大村彦次郎(おほむらひこじろう)と号(ごう)し。津国(つのくに)管領家(くはんれいけ)に奉仕(はうし)つかまる【「つかまる」は「つかまつる」ヵ】処(ところ)。傍輩(ほうばい)
の妬(そねみ)を請(う)け。十四ヶ年の昔(いぜん)。俄(にはか)に致仕(ちし)して所々(しよ〳〵)経歴(けいれき)し。漸(やう〳〵)当春(とうしゆん)始(はじめ)て
此(この)鎌倉(かまくら)に足(あし)をとめ。猶(なほ)金門(おんぶけがた)に仕官(つかへんこと)を願(ねが)ふ処(ところ)なり。恐(おそれ)ながら柄家(しつけん)。爰(こゝ)