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にあらで誰(たれ)かよくこれを射(い)ん。其上(そのうへ)伊具入道(いぐのにうだう)と。意恨(いこん)を結(むす)ぶ其所以(そのもと)は
朕(われ)以前(いぜん)より能(よく)知(し)れり。たとひ私(わたくし)の宿意(しゆくい)たりとも。恨(うらみ)をだに晴(はら)せし上(うへ)は。速(すみや)
に名乗出(なのりいで)んをこそ。武門(ぶもん)に於(おゐ)て潔(いさぎよし)とす。希(こひねがは)くは明白(あからさま)に。実状(じつじやう)を述(のべ)ん
事(こと)を。猶(なほ)も惑(まど)ひ陳(ちん)じ給はゝ。意恨(いこん)の根本(こんほん)たる者(もの)を召取(めしとり)。人中(じんちう)にて
面転(めんばく)【面縛ヵ】せん哉(や)と。仁慈(じんじ)を加(くは)へて述(のべ)らるれば。刑部入道(ぎやうぶにうたう)額(ひたい)に汗(あせ)を流(なが)し。
仰(おふせ)の赴(おもふき)恐入(おそれいる)ところ。此上(このうへ)はいかでか陳(ちん)じ申べき。忍難(しのびがた)きこと屡(しば〳〵)にして。
拠(よぎ)なく一箭(ひとや)に宿意(しゆくい)を散(さん)じたれば。いかやうに仰(おふせ)を蒙(かうふ)るとも。更(さら)に恨(うら)み
奉(まつ)る事(こと)なしと。潔白(あきらか)の返答(へんたう)に。時頼(ときより)ことに感称(かんしやう)し。対馬前司(つしまのせんじ)に
預(あづ)けおき。評定所(ひやうでうしよ)に於(おい)て。両執権(れうしつけん)奉行(ふぎやう)頭人(とうにん)着座(ちやくざ)にて。其罰(そのつみ)を
定(さだ)めし給に。流罪(るざい)押込(をしこみ)死罪(しざい)なんど評議(ひようぎ)区々(まち〳〵)にて一決(いつげつ)せず。執権(しつけん)
長時(ながとき)諸士(しよし)に向(むか)ひ。刑部(きやうぶ)左衛門が其罪(そのつみ)は。是非(ぜひ)を論(ろん)せず死刑(しけい)たるべし
対馬前司(つしまのぜんし)其所以(そのゆゑ)を問(とふ)ふ。長時(ながとき)が曰(いは)く。兼(かね)て時頼(ときより)某(それがし)に告(つげ)て。可看(みよ〳〵)