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凡(およそ)人(ひと)は三十歳に及(およ)んで身(み)を脩(をさめ)ずんば。終(つひ)に道(みち)に立留(たちとゞま)る事/難(かた)しと。
我(われ)今(いま)二十八/歳(さい)。希(こひねが)はくは身(み)を立(たつる)の設備(そなへ)を做(なさ)んとす。師(し)これを許(ゆる)し
給はんや。行印(きやういん)喜(よろこん)て。足下(おんみ)既(すで)に身(み)を立(たつ)るに足(た)れり。開業(かいぎやう)して可(か)ならんか。
藤綱(ふぢつな)則(すなはち)赤橋(あかばし)の辺(ほと)りに仮家(こいへ)を求(もと)め。こゝに移住(いぢゆう)して儒業(しゆぎやう)を開(ひら)き。
幼童(やうとう)に句読(よみもの)を授(をしへ)て。細(ほそ)き炊煙(けふり)を立(たて)たりけり。扨(さて)も今年(ことし)五月(ごぐはつ)の下(す)
旬(ゑ)より。七月(ひちくはつ)におよんで降雨(あめ)なく。これが為(ため)炎暑(ゑんしよ)ことに厳(はげ)しく。田野(でんや)は宛(あたか)
も枯野(かれの)の如(ごと)く。些(いさゝか)も緑色(みどりいろ)なく。皆(みな)黄色(きいろ)を帯(おび)て。穀粒(ごこく)更(さら)に熟(みの)らず。殆(ほとん)
ど餓莩(かへう)の容(いろ)を顕(あら)はしければ。時頼(ときより)種々(さま〴〵)心(こゝろ)をいため。神仏(しんぶつ)に祈雨(きう)の奉(はう)
幣(へい)法会(はふゑ)ありといへども。其(その)応験(わうげん)もなかりしかば。時頼(ときより)自身(じしん)に三島明神(みしまめうじん)に
参詣(さんけい)ありて。専(もつば)ら雨(あめ)を祈(いのり)給ふて下向(げこう)なし給ふ後(のち)。路次(ろし)の入用(いりよう)の雑(ざつ)
具(ぐ)どもを田牛(いなかうし)にとり付(つけ)鎌倉(かまくら)に帰(かへ)るに。片瀬川(かたせがは)を歩渉(かちわたり)する中流(ながれのなか)
にて。此牛(このうし)滔々(とう〳〵)と尿(いばり)をなす。折(をり)から若士(わかうど)壱人(ひとり)。同(おな)じく渉(わたり)ながら是(これ)を見(み)て