← 前のページ
ページ 215 / 491
次のページ →
翻刻
澆落(きやうらく)に降(くだ)り。人(ひと)また奸智(かんち)の盛(さかん)なる故(ゆゑ)にや。正道(せうだう)日々(ひゞ)に廃(すた)れ。非法(ひはふ)
月々(つき〳〵)に行(おこな)はれけん。自(をのづ)から互(たがひ)に恨(うらみ)をいだき。愁訴(しゆそ)歎願(たんぐはん)次第(しだい)に多(おほ)く。故(かるがゆゑ)に
罪(つみ)を請(う)け。罰(はつ)を蒙(かうふ)るもの又/少(すくな)からず。重職(じうしよく)頭人(とうにん)私欲(しよく)にからまれ。廉直(れんちよく)
実義(しつぎ)を失(うしな)ひ。露顕(ろけん)なしては。職(しよく)を免(めん)ぜられ所領(しよれう)に放(はな)るゝ輩(ともがら)。交々(こも〴〵)
絶(たゆ)ることなし。時頼入道(ときよりにうたう)これを深(ふか)く歎(なげ)き。青砥藤綱(あをとふぢつな)を召(めし)て閑室(かんしつ)に招(まね)
き。其許(おんみ)聖賢(せいけん)の道(みち)を尊(たふと)び。廉直(れんちよく)正義(せいき)を原(もと)として。是非邪正(ぜひじやせう)を分(わか)つ事
頗(すこぶ)る法度(はふと)に合(かな)ふ。故(かるがゆゑ)に今(いま)密(ひそか)に私意(しい)を告(つ)ぐ。抑(そも〳〵)時頼(ときより)。苟(いやし)くも天下(てんか)の
執権(しつけん)として。撫民(ぶみん)の政理(せいり)を重(おも)くし。賞罰(しやうばつ)を明(あき)らかにし。無欲(むよく)を専(もつは)ら
とすといへども。無是(むし)の訴論(そろん)公聴(こうてう)に絶(たえ)す。非理(ひり)の歎願(たんぐはん)権門(けんもん)に競(きそ)ひて。
四民(じみん)人欲(じんよく)の盛(さかん)なる事/防(ふせ)ぎ難(がた)し。これ我(わが)行跡(ぎやうせき)に非(ひ)ある故(ゆゑ)か。自(みつか)ら省(かへりみ)
るといへども。其(その)是非(ぜひ)を知(わかち)がたし。汝(なんぢ)兼(かね)て見聞(けんもん)する処(ところ)明白(あからさま)に聞(きか)せよ。必(かならす)
其許(おんみ)の異見(いけん)とは思(おも)はず。天(てん)藤綱(ふぢつな)をして告(つげ)給ふと。謹(つゝしん)で承(うけたまは)るべし。少(すこ)しも