← 前のページ
ページ 224 / 491
次のページ →
翻刻
五貫文(ごくはんもん)の銭(ぜに)を出(いだ)して探求(さぐりもとめ)させしは。所謂(いはゆる)小利(せうり)大損(たいそん)かな。流石(さすか)は大(だい)
名(めう)の腹(はら)より出(いで)て。大名(たいめう)と成(なり)給ふ故(ゆへ)。算勘(さんかん)には疎(うと)かりけりと打笑(うちわら)へば。魁(かしらとり)たる
者(もの)頭(かしら)を左右(さゆう)に振(ふ)り。否々(いな〳〵)其許(おんみ)の見(けん)誤(あやま)れり。我(われ)も不測(ふしぎ)に思(おも)ひしゆゑ。
恐(おそ)る〳〵其始末(そのわけ)を伺(と)ひたりしに。殿(との)莞爾(くはんじ)として宣(のたま)ふは。汝(なんぢ)か不審(ふしん)尤(もつとも)
なり。落(おと)す処(ところ)の銭(ぜに)は纔(わつか)なりといへども。天下(てんか)の国宝(こくはう)。今(いま)索(もと)め探(さくら)ずんば。忽(たちまち)
泥底(どろのうち)に沈没(しづみすた)れて。終(つひ)に国宝(たから)を永(なが)く失(うしな)ふべし。又(また)松明(たいまつ)の価(あたひ)。および。汝(なんぢ)
等(ら)に遣(つかは)す許多(そこばく)の銭(ぜに)は。其許等(なんぢら)の家(いゑ)にとゞまりて。徒(いたづら)に失(うしな)ふ事(こと)なし。
さらば我(わ)が損(そん)は汝等(なんぢら)が徳(どく)なり汝等(なんぢら)が得分(とくふん)は則(すなはち)我(わが)過(あやま)ちならずや
これ小事(せうじ)といへども。天下(てんか)の大理(たいり)なり。豈(あに)珍(めづ)らしき事(こと)かはと。御館(みだち)に人(ひと)
を走(はし)らせて。許多(あまた)の鳥目(てうもく)を取(とり)よせ。翌日(あす)ともいはで直(すみやか)に。賃銭(ほねをるしろ)をた
まふ仁慈(じんじ)明徳(めいとく)。中々(なか〳〵)われら如(ごと)きの心(こゝろ)を以(も)て。仮(かり)にも誹謗(ひはう)すべきに
はあらざりけりと煙管(きせるを)膝(ひざ)に突立(つきたて)て語(かたる)に。余(ほか)の人歩等(にんぶら)は始(はじめ)て会得(こゝろづき)