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けん。更(さら)に賃銭(ちんせん)をあまたゝび押/戴(いたゞき)て。その仁恵(じんけい)を感(かん)じける。折柄(をりから)
時頼入道(ときよりにうどう)。鶴(つる)ヶ(が)岡(おか)より帰館(きくはん)あり。此処(このところ)を過(すぎ)させ給ふに。人歩等(にんぶら)は驚(おどろ)き
騒(さわ)ぎ。松明(たいまつ)踏消(ふみけ)し擲消(たゝきけ)し。大道(だいだう)に平伏(へいふく)す。時頼(ときより)其(その)さま尋常(よのつね)ならぬ
を。不審(ふしん)に覚(おほ)し近士(きんし)に命(めい)じ。何(なに)が故(ゆゑ)に朝(あさ)まて。松明(まつ)さへ焚(たき)て。群(むらが)る
やと。馬(うま)をとゞめて問(とは)せ給へば。人歩等(にんぶら)は恐(おそ)れ入(いり)。藤綱(ふぢつな)の頼(たの)みによりて云々(しか〳〵)
の事(こと)に候と。賃銭(ちんせん)を得(え)たるまで申上れは。時頼(ときより)聞(きゝ)て思(おも)はずも。嗟呼(あゝ)
賢(けんなる)哉(かな)藤綱(ふぢつな)と。良(やゝ)感嘆(かんたん)して帰館(きくはん)なし。直(たゞち)に藤綱(ふぢつな)を召(めさ)れける。藤(ふぢ)
綱(つな)は終夜(よもすがら)。川辺(かはべ)にたちて銭(せに)を索(さぐ)らせ。暁(あかつき)に帰(かへ)りて息(いこひ)もせず。出仕(しゆつし)の
支度(したく)なす処(ところ)へ。早(はや)召使(めしつかひ)をたまはれば。何事(なきこと)にやと心(こゝろ)いそぎ。北条(ほうでう)が館(たち)に
参出(さんしゆつ)し。時頼入道(ときよりにうたう)に謁(ゑつ)すれば。入道(にうたう)常(つね)よりも顔色(がんしよく)麗(うるは)しく藤綱(ふぢつな)に向(むか)ひ。
其許事(そのはうこと)未(いまだ)新参(しんざん)なりといへども。抜群(ばつくん)の忠勤(ちうきん)称(しやう)するに絶(たえ)たり。仍(よつ)て将軍(しやうぐん)
思召(おほしめす)事あるにより。某(それがし)が奉(うけ給は)つて。自筆(じひつ)の加恩状(かおんじやう)を給ふとて。券紙(すみつき)を取(とり)