Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション3

. Japonais 180-181 - 翻刻

. Japonais 180-181 - ページ 244

ページ: 244

翻刻

いかでか。取用(とりもち)ゆる業(わざ)には非(あらざ)りけりと。傍若無人(ばうじやくふじん)に言散(いゝちら)し。得(え)たる鳥(とり)を料理(りやうり)な し。酒(さけ)うち飲(のみ)て臥(ふし)たりしが。女房(によぼう)も左(さ)のみは諫(いさめ)かねて。同(おな)し臥処(ふしど)に入(い)らんとするに。夫(おつと)が 枕上(まくらもと)に衣体(ゑたい)麗(うるは)しき女房(によぼう)の。一人(ひとり)物淋(ものさび)し気(け)に立居(たちゐ)つゝ   日(ひ)くるればさそひし物(もの)を阿曾沼(あそぬま)の真(ま)こもがくれのひとり寝(ね)ぞうき と打誦(うちず)し。いもせの中(なか)をさかれ参(まい)られし。悲(かな)しみはいかで思(おも)はずや。夫(おつと)の讐人(あだびと) いかでやは。此(この)まゝ易(やす)らに置(おく)べきかと。経邦(つねくに)が胸元(むなもと)に乗掛(のりかゝ)り。拳(こぶし)を固(かた)めて三打(みうち) うつ。妻(つま)この体(てい)を見(み)て止(とゞ)めんとせしは南柯(なんか)の一夢(いちむ)。今(いま)見(み)し女(をんな)もあらざれと。経邦(つねくに) の方(かた)を見(み)てあれば臥(ふし)たる侭(まゝ)にて鮮血(せんけつ)口(くち)より迸(ほとばし)り。息(いき)さへ絶(たへ)たる容静(ありさま)に。驚(おどろ)き 騒(さわ)ぎ医師(いし)をむかへ。専(もつは)ら蘇生(そせい)を求(もと)むといへども。六脈(ろくみやく)既(すで)に絶(ぜつ)して。即死(そくし)せり。 妻(つま)の悲歎(ひたん)比類(たとへん)かたなく。其坐(そのざ)に黒髪(くろかみ)おし切(きつ)て。夫(おつと)のため且(かつ)は鴦(おしとり)のため永(なが)く 仏門(ふつもん)に帰入(きにう)して。諸国(しよこく)修行(しゆぎよ)の身(み)となれば。いまだ嗣子(じし)もあらざる上(うへ)。時頼(ときより)の戒(かい) 辞(じ)を用(もち)ひざる聞(きこ)え有(あり)ければ。旁(かた〳〵)領地(れうち)没収(もつしゆ)して。阿曽(あそ)の氏名(いへ)は絶(たへ)たりける