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又(また)同(おな)じ頃(ころ)伊豆国(いづのくに)の地頭(ぢとう)なる大佛(おほさらぎ)八郎/道隆(みちたか)といふもの。これも兼(かね)て
狩猟(かり)をこのみしが。或日(あるひ)山中(さんちう)に狩(かり)して。猿(さる)一/疋(ひき)を生捕(いけどり)。引(ひい)て帰(かへ)り。家(いへ)の柱(はしら)に
つなぎ置(おき)。明(あけ)なは打殺(うちころ)して皮(かわ)を剥(はが)んとす。道隆(みちたか)か母公(ぼこう)。兼(かね)て慈悲心(しひこゝろ)ふかき
人(ひと)なるが。道隆(みちたか)にいへるは。斯(かく)戒(いましめ)られたる此猿(このさる)の。いか計(ばかり)かは悲(かな)しかるらん。こと(こと)更(さら)
猿(さる)は人間(にんげん)に間近(まちか)きものと兼(かね)て聞(きけ)ば。曲(まげ)て母(はゝ)へたびてん哉(や)と。掻口説(かきくどき)乞(こ)ふ程(ほど)に。
流石(さすが)は母(はゝ)の歎願(たんぐはん)を。空(むな)しくも成(なり)がたく。此上(このうへ)は兎(と)に角(かく)に。母公(ほかう)のまに〳〵做(なし)
給へと。いふに嬉(うれ)しく則(すなはち)尼公(にかう)。手(て)づから縛(いましめ)を解(とき)ければ。かの猿(さる)は涙(なんだ)をながし
尼公(にかう)を伏拝(ふしおがみ)みて。何地(いづち)ともなく逃行(にげゆき)しが。頃(ころ)しも夏(なつ)の折(をり)からなれば。翌(よく)
朝(あさ)暁(あかつき)に。端居(はしゐ)に念珠(ねんじゆ)くり居(ゐ)たるに。昨日(きのふ)放(はな)ちたる猿(さる)の。前栽(せんざい)より出来(いできた)り
楢(なら)広葉(ひろは)に。覆盆子(いちご)を包(つゝ)みて。尼公(にかう)の前(まへ)におき。数度(あまたゝひ)額突(ぬかつき)て去(さ)りぬ。
其(その)のちも打(うち)つゞきて。四季折々(しきをり〳〵)の菓(くだもの)を持来(もちきた)りて尼公(にかう)に供(くう)ず。道隆(みちたか)も
此挙動(このふるまひ)を見(み)しよりも。何(なに)となく殺生(せつしやう)快(こゝろよ)からず。終(つゐ)に殺生(せつしやう)を止(とゞま)りける。此事(このこと)