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聞(き)くもの。皆(みな)赤子(あかご)の母(はゝ)を失(うしな)ふがごとく。貴賤(きせん)これを歎(なげ)き。磯打浪(いそうつなみ)。松(まつ)ふく
風(かせ)も。おのづから音高(おとたか)からず覚(おぼ)えて。四海(しかい)打嚬(うちしほれ)てぞ見えにけりこの形容(ありさま)
を聞(きゝ)給ひて。須波(すは)時節(じせつ)こそ到来(とうらい)せりとて。二階堂入道(にかいだうにうどう)と倶(とも)に怪(あや)し
げなる麻(あさ)の衣(ころも)を着(ちやく)し。網代笠(あじろがさ)にて面(おもて)を覆(おほ)ひ。信濃入道(しなのにうだう)と只(たゞ)弐人(ふたり)裾(すそ)
高(たか)くからげ。廻国行脚(くわいこくあんきや)に身(み)をやつし。密(ひそか)に鎌倉(かまくら)を立出(たちいで)給ひ。何地(いづち)をか
志(こゝろざ)し給ひけん。御行方(おんゆきがた)を更(さら)にしる人(ひと)なかりけり
編者(へんじや)申て曰(いはく)時頼入道(ときよりにうどう)諸国(しよこく)を経歴(けいれき)し給ふ条(でう)に。最明寺(さいめうじ)に
籠居(ろうきよ)なし文応(ふんおん)二/年(ねん)の秋(あき)卒去(そつきよ)し給ひ。二階堂入道(にかいだうにうだう)も殉(じゆん)
死(し)したりと披露(ひろう)あつて。形(かた)のごとく葬送(のべおくり)をもいとなみ。時宗(ときむね)
も喪(も)を発(はつ)し。種々(しゆ〴〵)の仏事執行(ぶつじしゆきやう)ありしかば。鎌倉(かまくら)の人民(じんみん)天(てん)に
かなしみ。地(ち)に哭(こく)しける。かくて時頼(ときより)信濃入道(しなのにうだう)を具(ぐ)して。密(ひそか)に