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武備長久子孫後栄(ぶびちやうきうしそんこうゑい)を懇願(こんぐわん)し。社頭(しやとう)に宿籠(しゆくろう)する事三七日。既(すで)に満(まん)する
夜(よ)の暁天(あかつき)に。五衣着(いつゝきぬき)たる端厳美麗(たんごんびれい)の女房(によばう)。忽然(こつぜん)と時政(ときまさ)の座前(ざせん)に来(きた)りて。
汝(なんぢ)が懇願既(こんぐわんすで)に神明納受(しんめいのうじゆ)まします。故(かるがゆへ)に告(つぐ)る事(こと)あり。抑(そも〳〵)汝(なんぢ)が前世(ぜんしやう)は相州(さうしう)箱(はこ)
根山(ねさん)に住(ぢう)せし一法師(いちはふし)にて。常(つね)に法華経(ほつけきやう)を書写(しよしや)する事六十六部(ろくしうろくぶ)。これを本朝(ほんちやう)六
十六ヶ国(かこく)の霊地々々(れいち〳〵)に奉納(はふなふ)す。其(その)功績(こうせき)の広大(くわうだい)なる事。神霊(しんれい)仏陀(ふつだ)の愛愍(あいみん)なし。
給ひて。今世(こんぜ)北条(ほうてう)が家(いへ)に再誕(さいたん)なさしめ。子孫(しそん)栄茂(ゑいも)を守護(しゆご)なし給ふところ也。
若(もし)朕(わが)いふ処(ところ)を狐疑(こぎ)なさんには。国々(くに〴〵)の霊地(れいち)に納(をさむ)る処(ところ)の経巻(きやうくはん)を見てしるべし。
勉哉北条(つとめよやほうてう)。謹哉時政(つゝしめやときまさ)と宣(のたま)ひて。社殿(しやてん)の扉(とびら)を八字(はちじ)に開(ひら)き内陣(ないぢん)に入(いり)給ふ。
と覚(おほ)えしは。所謂(いはゆる)これ南柯(なんか)の一夢(いちむ)にして。金烏(きんう)波瀾(はらん)を払(はら)ふて赫々(かく〳〵)たり。時政
忙然(はうぜん)として。倩(つら〳〵)夢(ゆめ)の容(よう)を按(あん)ずるに。我(われ)子孫繁栄(しそんはんゑい)を祈願(きくわん)なせる心(こゝろ)よりして。斯(かゝ)る
正(まさ)なき夢(ゆめ)を見た処(ところ)か。しかれども箱根法師(はこねはふし)が再誕(さいたん)なる事/思(おも)ひ設(まうけ)ざることなれは。
思夢(しむ)にあらずして虚夢(きよむ)とやいはん。然(しかし)なから又(また)余(わが)丹精(たんせい)若(もし)くは神(しん)も納受(なふじゆ)まし〳〵。