← 前のページ
ページ 36 / 491
次のページ →
翻刻
ずんば。関東(くわんとう)の大小名(だいせうめう)。こと〴〵く味方(みかた)を背(そむ)き。源家(げんけ)に属(しよく)し申べしと聞(きこ)えければ。
相国入道清盛(さうこくにうたうきよもり)大(おほひ)に怒(いか)り。おのれ頼朝(よりとも)の小冠者(こくわんじや)め。疾(とく)捻殺(ひねりころ)さんずるものを。由(よし)
なき禅尼(ぜんに)の申なしにより。助命(じよめい)放生(はうしやう)をなし遣(やり)たる。其(その)厚恩(かうおん)を讐(あだ)にて返(かへ)し。
我(われ)に敵対(てきたう)大胆不敵(だいたんふてき)。速(すみやか)に踏破(ふみやぶつ)て。頼朝が素頭(すかふべ)引抜(ひきぬき)朕(われ)に見せよと。嫡子(ちやくし)小(こ)
松(まつ)故(こ)内府(だいふ)重盛公(しけもりこう)の嫡男(ちやくなん)左近衛少将(さこんゑのしやうせう)維盛卿(これもりけう)を惣大将(さうたいしやう)とし。副将(ふくせう)には正三位(せうさんみ)
薩摩守(さつまのかみ)忠度卿(たゞのりけう)。侍大将(さふらいたいしやう)には。上総守(かづさのかみ)忠清(たゞきよ)。斉藤(さいたう)別当(べつたう)実盛(さねもり)。其勢/都合(つがう)三万
余騎(よき)にて発向(はつかう)せしむ。諸将(しよしやう)日(ひ)を経(へ)て。駿河国(するがのくに)富士川(ふしかは)に参着(さんちやく)せしに。此事(このこと)相州(さうしう)
に聞(きこ)えしかば。頼朝卿(よりともこう)十万余騎を引率(いんそつ)し。同しく川の東岸(とうがん)に陣(ぢん)を敷(しい)て平軍(へいぐん)を
向(むか)ふ。関東(くはんたう)の諸将(しよせう)弐万三万の軍兵(くんびやう)を卒(そつ)して。御陣(ごぢん)に参(まい)り。御味方(おんみかた)に属(ぞく)せる者。日夜(にちや)
引(ひき)もきらす。家々(いゑ〳〵)の簱(はた)川風(かはかせ)に靡(なび)かせ。威気(いき)稟々(りん〳〵)として見えけれは。平家(へいけ)の諸将(しよせう)
大に恐怖(けうふ)し。あな夥(おびたゝ)しの軍兵(ぐんべう)やな。名(な)にし負(おひ)たる坂東(ばんとう)の荒武者(あらむしや)。雲霞(うんか)にひとしく
見えたるに。味方(みかた)纔(わづか)に三万/余騎(よき)。須波(すわ)合戦(かつせん)といふならば。味方(みかた)一戦(いつせん)はこたへまじと