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流行(りうかう)して。市人(いちびと)の行違(ゆきちが)ふにさへ。謎(なぞ)をかけ。直(たゞち)に解得(ときえ)ざるを笑(わら)ふ。是(こ)は唐(もろ)
土(こし)にも有(ある)ことにや。史記(しき)とかいへる書(ふみ)にもありと聞(きゝ)き。又/我朝(わがてう)にもふるくより
いへることにて。智(ちゑ)の浅深(せんしん)を知(し)るといふ。曽祢(そね)の好忠(よしたゞ)が。えもいはしろの結(むすび)まつ。
千歳(ちとせ)ふるとも。誰(たれ)かとくべき。といへるも。謎(なぞ)を詠(よめ)ると承(うけたまは)りぬと語(かた)るに。戒寿丸(かいじゆまる)
乳母(めのと)の膝(ひざ)に居(ゐ)て。倩(つら〳〵)これを聞(きゝ)。謎(なぞ)とはいかなる事(こと)をいふやと尋(たづぬ)るに。侍女(ぢしよ)答(こたへ)
て申は。古(ふる)くより申/伝(つた)えたるは。春(はる)の雪(ゆき)とかけて。繻子(しゆす)の帯(おび)と解(と)く。其/心(こゝろ)はとけ
安(やす)し。又ふるき傘(からかさ)とかけて。花(はな)ちる里(さと)ととく。心はさいたる跡(あと)なんど。此外/数多(あまた)有(ある)
よしを申。戒寿丸(かいじゆまる)四面(あたり)をながめ。庭前(には)に咲(さき)たる梅(うめ)が枝(え)を指(ゆひざ)し。是(これ)はいかにと云(いふ)。
侍女等(じちよら)頭(かしら)を傾(かたぶ)け。さま〳〵考(かんが)ゆるといへども。とくる言葉(ことば)をしらず。禅尼(ぜんに)嬉(うれ)しげ
に打笑(うちほゝゑ)みて。是(こ)は内裡(だいり)の上臈(ぜうろう)と解(とく)にやとのたまへば。戒寿丸(かいじゆまる)さやうに候。
后(きさき)と申/心(こゝろ)也と宣(のたま)ふ。並居(なみゐ)る侍女(ぢちよ)等これを聞(きゝ)て。始(はじめ)てその才智(さいち)に驚(おゝどろ)き。
いまだ六歳の御身(おんみ)にて斯(か)ばかり頓作(とんさく)ましますこと。いかさま名将(めいしやう)と成(なり)給ふべしと