← 前のページ
ページ 73 / 491
次のページ →
翻刻
供奉(くぶ)の面々(めん〳〵)十分(じうぶん)に肩臂(かたひぢ)を張(は)り。猶(なほ)道狭(みちせば)しと左右(さゆう)を白眼(にらみ)心易(こゝろやす)く参(さん)
詣(けい)し。去(さる)にても此君(このきみ)の御威光(ごゐくはう)。いまだ大幼稚(ごやうち)なれど斯(か)ばかりの崇敬(そんけう)。成(せい)
長(てう)の後(のち)にこそ。実(げ)に(に)飛鳥(とぶとり)も羽(は)を畳(たゝ)み。走(はしる)獣(けもの)も足(あし)を屈(かゞむ)べし。あな目出(めで)
度(た)の大将(たいしやう)やと。蜜(ひそか)【密ヵ】に驕(ほこ)り呟(つぶや)くを。戒寿丸(かいじゆまる)これを制(せい)し。法会(はふゑ)畢(おはり)て
帰館(きくはん)のゝち。直(たゞち)に供奉(くぶ)の面々(めん〳〵)を招(まね)き。今日(けふ)群参(ぐんさん)の其中(そのなか)にて。我(われ)に過(すぎ)
たる権威を褒(ほむ)る事。我心(われこゝろ)に快(こゝろよし)とせず。必(かならず)しも我(われ)を敬(うやま)ふならずして。祖(そ)
父(ふ)を尊(たふと)ふ処(ところ)なり。それ執権職(しつけんしよく)は天下(てんか)の達尊(たつそん)。万民(ばんみん)恐(おそ)るゝ処なり。我(われ)
倖(さいはひ)に其孫(そのまご)と生(うま)れたるが故(ゆへ)。斯(かく)国民(こくみん)の尊崇(うやまひ)をうくれども。是(こ)は北条氏(ほうでうし)を
恐(おそ)るゝにあらず。其(その)職名(しよくめい)を尊(たふと)ふ処(ところ)なり。唐土(もろこし)宋(そう)の国(くに)に。何尚元(かしやうげん)といふ人。吏(り)
部郎(ぶろう)《割書:日本/式部丞(しきふのぜう)|にあたる》といふ官(くはん)に登庸(のぼり)て。勢(いきほ)ひ高(たか)く威(ゐ)を輝(かゝや)かす。或時(あるとき)父(ちゝ)の
病(やまひ)を問(とは)んため。暫(しば)しの暇(いとま)を願(ねが)ひて旧里(きうり)に帰(かへ)らんとす。禁中(きんちう)の官人(くはんにん)餞(はなむけ)を
おくるもの数百人(すひやくにん)。父(ちゝ)何叔度(かしゆくど)問(と)ふていはく。汝(なんぢ)帰国(きこく)の首途(かどいで)に。餞(はなむけ)するもの