← 前のページ
ページ 77 / 491
次のページ →
翻刻
数々(かす〴〵)給(たま)はりけるに。泰時(やすとき)君恩(くんおん)を感佩(かんはい)し。更(さら)に賀筵(がゑん)をひらき勧(くはん)
盃(はい)とり〴〵なりけるが。頼経卿(よりつねけう)も満足(まんぞく)のあまり。泰時(やすとき)に宣(のたま)ふは。時頼(ときより)
が動静(ふるまひ)を鑑(み)るに。器量(きれう)卓才(たくさい)凡庸(つね)ならず。行末(ゆくすゑ)汝(なんぢ)にまさるとも
をさ〳〵劣(をと)るべうは見えず。天晴(あつはれ)天下(てんか)の柱石(ちうせき)たるべし。これに依(よつ)て来(きた)ル(る)八月
鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)。奉納(はふなう)の流鏑馬(やぶさめ)を。五郎/時頼(ときより)に勤(つと)めさせよ。嘸(さぞ)な見事
に仕(つかまつ)るべしと宣(のたま)ふ。時頼(ときより)は重々(かさね〴〵)の面目(めんぼく)。泰時(やすとき)の喜悦(よろこび)譬(たとふる)にものなく。
感佩(ありがたく)御請(おんうけ)を申奉る。すでに其夜(そのよも)鶏鳴(けいめい)に近(ちか)ければ。御遊宴(ごゆうえん)を止(とゞ)められ。
御帰館(ごきくはん)を促(うなが)し給ふ。泰時(やすとき)時頼(ときより)駿馬(じゆんめ)に跨(またがり)て。御輿(ぎよよ)の前後(せんご)に供奉(ぐぶ)し
御所(ごしよ)まで送(おく)り奉(たてまつ)る。其/体粧(ていさう)。実(げに)も北條(ほうてう)の繁昌(はんぜう)は。此ときとこそ見えたり
ける。斯(かく)て時頼(ときより)は流鏑馬(やぶさめ)の台命(たいめい)を蒙蒙(かうふ)りてより。設備(やうゐ)区々(まち〳〵)にして既(すで)に
七月十九日。鶴(つる)ヶ(が)岡(おか)の馬場(ばゞ)に於(おゐ)て。稽古(けいこ)あるべきとて。泰時(やすとき)時頼(ときより)流(や)
鏑馬舎(ぶさめや)に出(いて)給へば。駿河前司(するがのせんじ)をはじめ。宿老(しゆくろう)の面々(めん〳〵)も参集(さんしう)せられて