Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション3

. Japonais 180-181 - 翻刻

. Japonais 180-181 - ページ 88

ページ: 88

翻刻

原来(もとより)七十歳(なゝそぢ)の齢(よはひ)なれば。日(ひ)を経(へ)て頼(たの)み少(すくな)く見えぬれば。雪枝(ゆきえ)が悲(かな)しみ比(たと) 類(ふる)に的(もの)なく。希(こひねがは)くは身(み)を贄(にへ)とし。母(はゝ)の命(めい)を延(のべ)ばやと。十七八町ばかり東方(ひがし)なる。 瀬戸(せど)の明神(めうじん)へ立願(りうぐはん)し。七日(なぬか)ヶ(の)間(あひだ)日参(につさん)の志願(ねがひ)をおこしけるが。流石(さすが)若(わか)き女(をんな)の 身(み)。孤独(ひとり)は道(みち)のさはりも有(あら)んと。丈(たけ)なる髪(かみ)を惜気(をしげ)もなく。小短(みじかく)きりて男髷(をとこわげ)と し。子童(わらは)の体(てい)に行装(いでたち)て。母(はゝ)の熟寝(うまね)のひま〴〵に。忍(しの)びて明神(かみ)へまうでつゝ。 南無(なむ)瀬戸(せど)の明神(めうじん)。老母(はゝ)が所労(いたはり)今一度(いまいちど)。希(ねがは)くは快気(くはいき)なさしめ給へ。若(もし)も天寿(てんじゆ) こゝに限らば。我生命(わがいのち)を以(も)て換(かへ)させたまへ。只(たゞ)ひたすらに愛愍納受(あいみんなうじゆ)なしてたべと。 一心(いつしん)に懇願(こんぐはん)する事(こと)。已(すで)に三夜(みよさ)に及(およ)ぶ。爰(こゝ)に又(また)金蔵院(こんざういん)といへる寺門(てら)の学侶(でし)に。 正覚房(せうがくはう)といふものあり。此僧(このさう)弐歳(にさい)のとき父母(ちゝはゝ)におくれ。七才にして釈門(しやくもん)に帰入(きにう)し。 諸経(しよけう)に眼(まなこ)をさらし。身(み)には三衣(さんえ)の破裂(はれつ)をも厭(いと)はず。心(こゝろ)は三毒(さんどく)の霧(きり)に犯(おか)され ず。行(おこな)ひすまして有(あり)けるが。猶(なほ)其勤行(そのごんきやう)。怠慢心(たいまんしん)のあらん事(こと)を恐(おそ)れて。堺(さかひ)の地蔵(ぢざう) 尊(そん)に立願(りうぐはん)し。日々(にち〳〵)参詣(さんけい)なしたるに。此日(このひ)は師(し)の坊(はう)に諸侯(しよこう)の来賓(らいきやく)ありて。其(その)