翻刻
【雲のような囲みの中】
ときにこゝはまた
むつかしいあのおや
ちはてめへたちめには
みへめへがてあしの
つめにひをとぼし
わらぢをぬがすに
三十ねんほくとの
ほしをおがんであの
よふにはらっふく
ふくれとなつて
金のうなりごへ
ばかりきいてゐる
それでもひよつと
うちのものにての
なかい【手癖が悪い】ものがあら
うかとみせうら【店裏】
かつてもと【勝手元】どぞう【土蔵】
ものをき【物置き】のこると
ころなく【残る所なく=くまなく】めをくば
る事いくつとらふ
かづがきりなくよる
ひるきら〳〵ひから
かしてゐるがなんと
三つ目ぐらゐはおよ
びもなへこんた
ハテねへムヽウ
【左ページへ】
又こちらのはばん
しうだがこいつ
わるくすると
よな〳〵
大川のなみの
うへをわたり
たがるやつた
あちらのは
うちのむすこ
こいつゆふべ
とつかいきおつて【どっか行きおって】
けさかへりて
おふくろを
あやなしいゝ
かけんに
あはせてゐる
けれど
おやの
かほか八めん
大わうのよふた
しかしまだ〳〵
おやちのかほの
こはいうちは
たのもしい
ずいふんこのおやぢもわかひとらじまちのきはあさつはらの
しやうじきそは【正直蕎麦】かしまち【河岸町?鍛冶町?】のきらずじる【切らず=おから汁】もくつた
やつたかなせかむしやうにむすこにはやかましい
【正直蕎麦は浅草寺境内で営業していた十割蕎麦屋。そこで朝っぱらから食べているのは吉原からの朝帰りだという意味。】
【切らずはおからの事。豆腐と違って切らない事から。おからの汁は二日酔いに効くと言われている。】
【人間たち台詞、右ページ】
くらやしきへ
にかつき
ましたと
しらせて
まいり
ました
あらためて
まいりま
しやう
【左ページ】
ゆふべはうたひの
くわいにまいつたと
申ます
そふて
あらう
ばんには
なんと
いつて
うちを
てよふ
しらん
【擦れている部分は別本にて補いました。別本はコマ1参照】