翻刻
【右丁】
強(つよ)く吹舟の艫□□わり楫を【以下破損にて読めず、「九州帝國大學圖書印」朱角印あり】
十六人の水主(すいしゆ)汗水(あせみづ)になり命限(いのちかぎ)り根(こん)かぎりに働ども只□
まわしきび敷(しき)ゆへぜひなく帆柱(ほばしら)を切大風□波(なみ)□
逆巻(さかまき)上りめい〳〵かくごを極(きわ)めかれこれ□る内夜もあけ
はなれしがます〳〵風ハ勢(いきほ)ひつよく又南風となりは
げしきこといかんかたなし舟頭(せんどう)磁石(じしやく)を以(もつ)て方角(ほうかく)を考(かん)
へるまもとかく大風に吹まわされ風下(かざした)へ〳〵と流(なかれ)より四
日の九ツ時にハ向ふに八丈がしまのごとくなる所を見付 楫(かぢ)
づかを柱(はしら)に立(たて)帆(ほ)を上(あ)げ綱(つな)を弐 房(ふさ)表(おもて)に仕(し)たて右の嶌
【左丁】
を目 當(あて)に心がけるといへども風は次第(したい)に盛ん□なり汐浪(しほなみ)
逆立(さかだち)嶋へとてハよりつきがたく夫(それ)よりハ晝夜(ちうや)のわかちもなく
十六人の者ども命(いのち)から〴〵運(うん)を天(てん)に任(まか)せいづくといふあて
どもなく毎日〳〵吹風(ふくかぜ)は戌亥(いぬい)とみれハ丑寅(うしとら)ふき巳午(みむま)か
とおもふ内にハ未申(ひつじさる)へ吹まハり氣力(きりよく)勢(せい)氣もつかれはて
漸(やう〳〵)十月卅日 朝(あさ)五ツ比(ごろ)より子丑(ねうし)風に吹直(ふきなを)り天気 快晴(くわいせい)に
なり風は鎮(しつま)りしが霜月二日までに呑水(のみみづ)をきらして
一向 咽(のど)のうるほひなく飯(めし)を焼(たく)ことハなをできず神佛へ
祈願(きぐはん)をなせど少(すこ)しづゝ風あるばかり雨(あめ)とてハふらすぜ