翻刻!九州大学の書物たち

コレクション: 漂流記コレクション

南漂記 - 翻刻

南漂記 - ページ 4

ページ: 4

翻刻

【右丁】 けふは命(いのち)の限(かぎ)りなるかあすハ藻屑(もくず)と成はつるか迚(とて)も□す べき約束(やくそく)ならバいづくの浦(うら)へなりともたどりつき生死(せうじ)の 程(ほど)も定めかたく落涙(らくるい)数行(すかう)におよびなをも太神宮の御加 護(ご)にて人里(ひとざと)へ近(ちか)よせ給へと御鬮(みくじ)を捧(さゝげ)漂行(たゝよひゆく)内(うち)誠(まこと)に神の御 助(たすけ)にて霜月十七日 明方(あけかた)朝日(あさひ)と共に一里ばかり未申(ひつじさる)の 方に小(ちい)さき嶋山を見つけしゆへ此嶌へと心さし程(ほと)なく 嶋ぎわまで漕寄(こぎよせ)せけるが是迄(これまで)だん〳〵の難風(なんふう)にて舩の 上(うハ)ぶち開(ひら)き五寸七寸ヅヽもゆるみ用意(よふい)のしゆろ縄(なわ)にて もしりを掛(かけ)此所までハ来りしにあか水七□□ま入らじ 【左丁】 りも切(きれ)もはや舩(ふね)も乗(のり)がたく此 末(すへ)ハいかゝせんと□□十六人とも 舟櫓(ふなやくら)へ上(あが)りそれより嶌(しま)の小高(こたか)き山へ登(のぼ)り四方(しほう)八面(はちめん)目(め)の及(をよ)ぶ たけ見まわせど村里(むらさと)濱辺(はまべ)もみへハこそ只 青々(せい〳〵)たる海(うみ)の 表(おもて)時ハ十一月の短(みじか)きに日ハ西山(せいざん)に傾(かたぶ)きてそよ吹(ふく)風の音(をと)ば かり我人(われひと)互(たがひ)に身(み)も心(こゝろ)も労(つか)れはて其上 病人(ひやうにん)の身(み)となり てすべきよふなく只(たゞ)手を合(あハ)せ諸(もろ)ともに念佛(ねんふつ)の外(ほか)他事(たぢ)も なくとりわけ十三才の小童(こども)また六十 有余(あまり)の老人(ろうじん)有 互(たがひ)に 手に手を取かわし此 嶋守(しまもり)となることかとおもへバかなしき やる方(かた)なく臥(ふす)ともなく現(うつゝ)ともなく一夜□ 爰(こゝ)に明(あか)しけむ