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翻刻
其余を以天下の士農工商の風雨をもふせきかぬる家職
をもとゝのへゑる者共の破損料を遣さは只一年の寺の
作事料の金銀材木ニても天下に普く行わたるへし日本
は能〻の上国也山林も谷崩も思ひの外深けれはこそ是
ほとの大きなる取くつし様ニても五六十年をへて漸く人の
目にも見ゆる様に成たる也 武士云今賢君出させ給はゝ
出家は御たやし可被成候か 社家云何事も人力を以なすは正道
にあらす悪をかくして善をあくるは悪を退る也寛仁の心也如此
弘こりて沢山なる仏者の中には何共他の事には片付のならぬ
もあり又俄に大勢の者を可被成様もなし先天下の害と成ル
大なる費のみをやめて自然の勢に任せ釈迦達磨の再生して
仏法を建立せらるゝ共是より能は成ましきといふ程に仏法の真実
を大にとりたて給ん也昔より真実の道心の出家は堂塔大寺を
おらんことを願はす上人長老といはるゝ出世を好ます世中の害と
なる事は皆世間僧のしわさ也世間僧といふものは仏法を商ひに
する也無欲無我にし忍辱慈悲の僧の戒定恵の三学を具足
して真如仏性の月をみんと思ふ者はいにしへより蓬の戸ほそに
こもり柴の垣に世を遁れたるとこそ聞釈迦を初めとして乞食
して露の命をつなきあまりあれは非人に与へて明日の貯なかりし也
出家と成からは初学のしほち【新発意】にても肉食せす酒を飲ず男女
の道をたち五辛を食せす怒腹立て人と争はす財物を
貯へす是等の事一ツも犯すものは出家にあらす僧正の下知