翻刻!地震・災害史料

コレクション: NDL地震・火山

鶯宿雑記. 巻263-264 - 翻刻

鶯宿雑記. 巻263-264 - ページ 63

ページ: 63

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通りしに日のめ見えぬ所侍りし吉野熊野抔大なる深林にて ありき然るに近年五六十年此かた天下兵乱なく静成 時運にあたりて文武の教なけれは国郡の主も人に君たるの道 をしらす栄花の奢を事とせり其上に仏者の奢を極め 無道至極して天下の山林を伐あらしたれは郡国のあさ山は 忽尽て吉野熊野木曽土佐等の深山より日本国の材木 を出す事なれは山を田畠と心得て材木に依て露命を つなくもの幾千万といふ数をしらす世中騒しくならは此杣 によりたる者共木を伐て米にかへんとするも誰か求む筏   にて下すとも乱取にこそはとらめ其上軍国の費扶持方 に迷惑して前後を忘すへけれは家居の奢も誰かせむ堂 寺をも誰か修理せん此多くの者共の山林を田畠と心得たるは 元より田地はなし忽飢に及ふ事なれは是非なく一揆を起して 賊と成へし昔の安かりし深山は今はかへりて難儀成へし妻 子の置処には思ひもよらぬ昔楠なとは百姓に情をかけ置 て上に思ひ付たる故に天下を敵に引受たれ共自分の妻子 より家中の諸士の足弱まても深山に隠し置何の気遣ひ もなく百姓等に養はれ一人身に成て一人当千の働もしたり 大軍よすれは深山に入かへれは又出て敵をも思ふさまになや ましたれ今百姓と地頭とは仇敵より深き恨あり何事そ あれかな恨を報せんとこそ待らめ不仁無道の奢の報ひ とは言なから情なく哀成事たゝかたき恥を見んこそいた