← 前のページ
ページ 90 / 111
次のページ →
翻刻
利よりは一艘ニて十倍もとりかへしぬ甲州の葡萄を所にて
買切馬百駄あれは廿駄程江戸へつけ八十駄は深谷へすて
ぬ百駄なから付たるよりは三はい五倍の利をとりぬ其代の
銀こそめくりて日本にもあらめかくて物を空しくなし武士を
迷惑させ民を困窮せしむる事は其罪死にも入られし
魚とぶどうの二色にて万の物は知り玉へか様の者共か邪智
深くて色〳〵に手をまわし物もいひそふなる方へは前おきを
すれはかゝる悪逆も上へ達せず畢竟上の御冥加のへり御
運の縮る事こそ歎かしけれ武士云仰を承候へは商人の如
此天下の利をあらし米穀金銀財用の権をうはひ取たる
事はもろこしにも日本にも此時より甚しき事はあらし然共
仏氏の堂塔伽藍を以て日本を衰微せしむるの害とはいつれニて
侍らん社家云商人の害も本は仏氏より出て又仏氏を助
る事甚し仏氏の害も天地ひらけて此かた唐にも日本に
も此時より大成はなし夫をいかにと申に昔は天下のものゝ信
に任せて上より一同に仏氏に帰し給ひし被仰付はなかりし也
夫故に仏者もおのつからたしなみ有き其侭ニて置なは今
時分は旦那寺を持ぬもの天下半分は有へし坊主も今の
半分寺も半分ならては有ましけれは天災地妖の禍も
如此有へからす商人の民と武士とを迷惑さする事も如此急
ならし近年は切支丹の御法度故に人の信もなき仏法又
再興していやともいはせす天下おしなへて旦那を付玉へは坊主共