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【右丁】
箱(はこ)の内(うち)の上(うへ)より半月(はんげつ)のごとき物(もの)を造(つく)りはじめ継(つい)で下(した)一はひ両脇(りやうわき)共(とも)
に盈(みた)しむ其(その)厚(あつさ)凡(およそ)壱寸八歩/或(あるひは)二寸/斗(はかり)両面(りやうめん)より六角(ろくかく)の孔(あな)数多(あまた)を
開(ひら)き柘榴(ざくろ)の膜(まく)に似(に)て孔(あな)深(ふかさ)八九歩/是(かく)のごとき物(もの)を幾重(いくえ)も製(つく)りて其(その)脾(す)と
脾(す)との間(あいた)纔(わつか)人(ひと)の指(ゆひ)の通(とを)る程宛(ほとつゝ)の隙(ひま)あり蜂(はち)其隙(そのひま)に入(いる)には下(した)より潜(くゝる)なり
全体(せんたい)脾(す)を下(した)迄(まで)は盈(みた)さずあればなり脾(す)の形(かたち)或(あるひ)は正面(せうめん)或は横(よこ)斜(なゝめ)などに
て大抵(たいてい)同(おな)し其孔(そのあな)には子を生(う)み又(また)蜜(みつ)を貯(たくは)へ又 子(こ)の食物(しよくもつ)の花(はな)を貯(たく)はふ又(また)
子/成育(せいいく)して飛(とん)で出入(ていり)するに及(およ)べば其跡(そのあと)の孔(あな)へも亦(また)蜜(みつ)を貯(たく)はふ凡(およそ)蜜(みつ)
はじめは甚(はなはた)淡(あは)しき露(つゆ)なり吐積(はきつ)んで日(ひ)を経(へ)れば甘芳(かんはう)日毎(ひごと)に進(すゝむ)こと
実(まこと)に人の酒(さけ)を醸(かも)するに等(ひと)し既(すで)に露孔(つゆあな)に盈(みつ)る時(とき)は其(その)表(おもて)を閉(とぢ)て一(いつ)
滴(てき)一気(いつき)を洩(もら)すことなし蜂(はち)の数(かず)多(おゝ)ければ気味(きみ)も厚(あつ)し
○蜂(はち)は小(せう)なり大(おほ)きさ五歩(ごぶ)許(ばかり)マルハチに似(に)て黄(き)に黒色(こくしよく)を帯(おぶ)多(おゝく)
群(あつまり)て花(はな)をとる物(もの)は巣(す)を造(つくら)ず巣(す)を造(つくる)ものは花(はな)を採(と)らず時々(とき〳〵)入替(いりかわ)
りて其(その)役(やく)をあらたむ夫(それ)が中(なか)に蜂王(だいわう)といひて大(おほ)きなる蜂(はち)一(ひとつ)つあり
【左丁】
其(その)王(わう)の居所(いところ)は黒蜂(くろはち)の巣(す)の下(した)に一台(いつたい)をかまふ是(これ)を台(うてな)といふその
王(わう)の子(こ)は世々(よ 〳〵)継(つき)て王(わう)となりて元(もと)より花(はな)を採(と)ることなく毎日(まいにち)群蜂輪(くんほうかわり)
値(はん)に花(はな)を採(と)りて王(わう)に供(くう)す是(これ)一桶(ひとおけ)に一个(ひとつ)のみなるに子(こ)を産(う)むこと
雌雄(しゆう)ある物(もの)に同(おな)し道理(とうり)においては希異(きい)なり群蜂(ぐんはう)是(これ)に従侍(じうじ)#1する
こと実(まこと)に玉体(ぎよくたい)に向(むかふ)がごとし又(また)黒蜂(くろはち)十/斗(ばかり)ありて是(これ)を細工人(さいくにん)と呼(よ)ぶ孔口(あなくち)
を守(まも)りて衆蜂(しうはう)の出入(ていり)を検(あらた)め若(もし)花(はな)を持(も)たずして孔(あな)に入(い)らんとするもの
あれば其(その)懈怠(けだい)を責(せめ)て敢(あへ)て入(い)ることを許(ゆる)さず若(もし)再三(さいさん)に怠(おこた)る者(もの)は遂(つゐ)に
螫殺(さしころ)して軍令(くんれい)を行(おこ)なふに異(こと)ならず凡(およそ)家(いへ)にあるも野(の)にあるも儀(ぎ)に
おゐては同(おな)じ
○ 頒脾(すわかれ) 大王(たいわう)の子(こ)成育(せいいく)に至(いた)れば飛(と)んで孔(あな)を出(いづ)るに群蜂(ぐんはう)半(なかば)従(した)
がふて恰(あたか)も天子(てんし)の行幸(みゆき)のごとく擁衛(ようゑい)甚(はなはた)厳重(げんぢう)なり其(その)飛行(とびゆく)こと大抵(たいてい)五(ご)
間(けん)より十間(じつけん)の程(ほど)にして木(き)の枝(えだ)に取附(とりつけ)は其脊(そのせ)其腹(そのはら)に重(かさな)り留(とゞま)りて枝(えだ)ゟ(より)
垂(たれ)たるごとく一団(いちだん)に凝(こり)集(あつま)り大王(たいわう)其中(そのなか)に核(たね)のごとく裏(つゝ)#2まる畜人(やしなふひと)是を逐(おふ)て
現代語訳
箱の内の上より半月のごとき物を造りはじめ、続いて下一杯、両脇共に満たしむ。その厚さ凡そ一寸八分、あるいは二寸ばかり。両面より六角の孔数多を開き、柘榴の膜に似て、孔の深さ八九分。かくのごとき物を幾重も製りて、その巣と巣との間、わずか人の指の通る程ずつの隙あり。蜂その隙に入るには下より潜るなり。全体、巣を下まではみたさざればなり。巣の形、あるいは正面、あるいは横斜めなどにて、大抵同じ。その孔には子を生み、また蜜を貯え、また子の食物の花を貯う。また子成育して飛んで出入するに及べば、その跡の孔へも亦蜜を貯う。凡そ蜜はじめは甚だ淡しき露なり。吐き積んで日を経れば、甘芳日毎に進むこと、実に人の酒を醸するに等し。既に露、孔に満つる時は、その表を閉じて一滴一気を漏らすことなし。蜂の数多ければ気味も厚し。
○蜂は小なり。大きさ五分許り、マルハチに似て黄に黒色を帯ぶ。多く群れて花をとる物は巣を造らず、巣を造るものは花を採らず。時々入れ替わりて、その役をあらたむ。それが中に蜂王といって大きなる蜂一つあり。
その王の居所は黒蜂の巣の下に一台をかまう。これを台という。その王の子は世々継いで王となりて、元より花を採ることなく、毎日群蜂輪番に花を採りて王に供す。これ一桶に一個のみなるに、子を産むこと雌雄ある物に同じ。道理においては希異なり。群蜂これに従侍すること、実に玉体に向かうがごとし。また黒蜂十ばかりありて、これを細工人と呼ぶ。孔口を守りて衆蜂の出入を検め、若し花を持たずして孔に入らんとする者あれば、その懈怠を責めて敢えて入ることを許さず。若し再三に怠る者は、遂に刺し殺して、軍令を行うに異ならず。凡そ家にあるも野にあるも、儀においては同じ。
○巣分かれ 大王の子成育に至れば、飛んで孔を出づるに、群蜂半ば従がって、恰も天子の行幸のごとく、擁衛甚だ厳重なり。その飛び行くこと、大抵五間より十間の程にして、木の枝に取り付けば、その背その腹に重なり留まりて、枝より垂れたるごとく一団に凝り集まり、大王その中に核のごとく包まる。畜う人これを追うて