翻刻
大地震発して朝日山崩れ落る所の多か
中に巌のわれたるあわひより出たるものあり
物になそらへは黒羅紗に織入れたる毛に
類ひせし品なり長サ二三寸にして細き事に小
児の髪毛の如し手障りの和らかなるは真綿に
等しく毛黒く赤みも少し有りて何の薫り
もなく艶悉くありて其美なる事また
稀なり其生物を求得て地震一類?の
袋に入置なれは渡【後?】世まても捨へからす
物知りたる人に尋て其名を知へし
掛る未曾有の変災なれは人心一日も
安からすきのふと過きけふと過きゆく光陰矢ゟも
早しといへとも何ひとつ取留まりたる事もなく
昼のつかれにはやくも臥 して其苦心を
補はん事をおもふといへとも入あひ過る
頃よりは夜の淋しさを案事 煩ひ
深夜におよふときは狼の夜毎とに来りて
死骸の匂ひを慕ひ焼跡に歩行くのよし
誰ありて通路するものもなく此上の火害
盗難を恐れて小屋毎にひやうしきうち