翻刻
足の慥成者をのみ村〻に行かしめ
外に大切の品もあれとも貯置金銭と
めしと味噌との此三品を第一として
持出さんとすいかなるかたに水の廻り押
来りなん事をおもふか侭に跡をも見す
してゆくとはいへとも処に寄ては五丁
十丁亦は半道一里を隔漸〳〵わか家に
行ては見れとも斯なる三品を携ひては又
逃帰る小高き山〳〵苦痛の歎き実にもつとも
廿四日の夜大災発して危き命を遁れ我
家も見すして狼狽逃去り狂気の如く心を
苦しめ善光寺市町炎〻たる大火を眼前に
見やり嫁を案し聟を思ひ親を案し子孫
思ふ事縁組計のゆかりにあらすといへとも今にも水の
押来りなん事をおもふ時は狼狽て必害あり
やるかたなく心を痛め未申にあたりては三里を
離れす稲荷山の一円の大火眼前に見え地は
幾度となく震ひ亦鳴動し足の元よりくゆるか
如く水絶にし大河をひかへ我か住む処は水にまかせて
最早なきものに思ひ斯の如く大難を身に引受て