翻刻
其成行を知らさる時はいかなる大胆不敵の者といひ
禅定悟りをひらくといへともなんそ驚怖
せさるへきやきのふと過けふとくらして
昼夜をわかたす今にも水の押来りなん
事を恐れ川中島の村〻はいふも更なり
川辺に連らなる村〻は壱人として家に
あらす居宅は猶更土蔵に至るまて
明け渡してそ置にけるいよ〳〵やうすも
わかりけるは岩倉山を始とし数ヶ所の
岩山抜崩れ水上を押埋めたれは譬ひ
いかなる変化あり共容易く是を押破らん事の
有へからすと定りけれは爰におゐて漸〻に
西は岡田小松原北ははなかみ小市山南は
清野西条山東は鳥打山続最寄〳〵に仮
小屋掛家財の品〳〵遠方なれはあるひは
運ひ亦は残し雑穀俵物積重ね〆りを
つけて東西南北夫〳〵におのれか小屋に
逃去りてけふや我家の押流れ翌日や
流失しぬるかと少しも安堵なかりけるは
実に恐ろしき事ともなり 日夜心を苦