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なかりしか内神田柳原ハ殊にはけしくて
公の穀番【蕃?】ふるぬりこめ六十間あまりくつれ
落ちたふかるハなし
おのれかやとりとしつる街のミにて廿四人
死失けるか中に稲本といへる家とめる
盲の其身いちとのあやまちもなかれと妻
娘をはしめとして七人まてうしなひしも有
又十七になんなりつる娘と七と三との男子
ミたり失てものくるほしくなりつる母も有
この同し長屋におのれか垢付たる衣そ
そきなとする女ありしかきて語つるに
其夜夫ハ遠き方へとて出たりしかハ十ニ
なりぬる娘といさうとさしていねハやなと
いひもあへぬにうつはりの下に押潰され息
も突あへぬほとなりしかハ心のそこにおの
れおさなかりし時御寺の聖の十二萬歳を
一劫とか云て此世の那【ママ】落の底とかいへるに
しつむものよなとの玉ひしを聞つるか
いま其時に逢たるなめれは吾夫のミか
天か下ニ生のこる人のあるましきよと思
ゐたりしにはるかなるかたに夫の聲して
娘の名吾名を呼ハせ玉ふにうれしやいき
ておハしけんされとあまりにはるけきかたを
のミたつね玉ふことのいふかしさよと思ひニ