翻刻
黒田千三郎病を問来けれは夫に負れて陣屋を出て
東鳥井と門名称するものゝ家に病を養ひつゝきくに
箱根山の大杉古木八重十文字に折たふれて通路と
まれりといふをはしめ諸国の変事種々の人に
あけてかそへかたし去年は前代未聞の大ちしん
ことしは古来聞も不及大風心もとなきよのなり
ゆきなりといはさるものもなかりけりことしの
大震に十八年のむかしをおもひ出て空に覚え
たる事かくのことし
今年明治五年壬申春二月六日夕七つ半時ころの
大地震家に居かねて誰言合すとなく家人不残後の
畑中に飛出て見るに藁ふきの大家根は初にゆらき
付おろしの瓦屋根は東にゆるき今やころふと守り
居けるに終に事なかりしを悦たて家に帰り見しに
棖押の上に懸たる鉄砲落て茶箱損し柱付の塀放れ
たり位之事なりき扨近隣の事聞に笠原氏にては
塀打たふれて箪笥三棹塀の下にたふれころひて
上なる引出しに入たる瀬戸物微塵に砕けしを
笊に幾杯とか捨たりとなん又黒田氏には縮棚より