翻刻
出雲郡千家村迄至れるに俄に目くるめきて足たゝす
持病起れりやと思ふ程にそあれ大地大波の打かことく
に見えて片辺なる長雲寺の松三百年にも及へく思は
れける老木ほつえ寺の屋根につくかと思ふはかりゆる
まてこの寺をはしめ家毎にものゝ落る音ころひたを
るゝ音おひたゝしき事になん又左右のあけ田の水
うねことに打越てゆるけりやゝをさまり方になれ
るころ空中にて震動鳴動せり神立村にいた
れるまて猶やます此夜爰にとゝまれるに此あたりの
百姓とも皆家を明て出雲川の川堤の上にて夜明せし
とそ宿の主いへらく大きにゆるきなは起すへし心落
ゐてい「ぬへし」ね玉へといへは其口にまかせて打臥ぬ夜中
幾度となくゆるきける度毎に家刀自らは懸出た
りしとなんおのれは終日の歩行にくたひれてよく
寝て翌日のあした思ふに松江はいかはかりの事ならん
それ聞すして行へきにあらすとて神立を出てだん原
といふ所まて帰りしに出西より庄原へ川違ありし
新川の南堤二三町はかりの所しつみけるを向より来れ
る人に尋ねけれは昨日の地震に如斯しつめり恐しき
地震なりしといへり扨松江を出くる人あらは