翻刻
医師を招き犀角(さいかく)。一角(いつかく)。穿山(せんざん)甲(▢▢)鹿茸(ろくしよう)。反鼻(はんび)。底野迦(てりあか)。泊夫藍(さふらん)。
大人参等の諸薬を用ひ。遺(のこ)る所なく療治を尽し。或は
仏殿(ぶつでん)に護摩(ごま)を請(こ)ひ。神社(じんしや)に祈祷(きとう)を願ひ。富貴の家には
親類(しんるい)多く集り。出入の者も。入かわり立ちかわり看病(かんびやう)を
助け。貧賤の家には。戸を鎖(とさし)て家業を廃(はい)し。日夜 帶(おび)を解
かず。顔をも洗はず。真黒(まつくろ)になりて看病を怠(おこた)らず。千慮
百計して。力を尽せ共遂に寸効なく。一軒の家にて三
人死するもあり。或は二人死するもあり。死を免るゝ
家は甚 稀(まれ)なり。幼少にて死したる者は勿論。多く十五
六歳より二十五六歳にて死したる者も亦 夥(おびたゝ)し。予が
門へも訃音(ふいん)【左ルビ「しゝたるしらせ」】の来ること。日に三四家に下らず。建具屋。
指物屋等は。常の細具をやめて。葬送(そう〳〵)の道具のみを造
る。毎夜市中は。葬送の五ツ六ツも並ひ行く事あり。或
は東西より出合。或は南北へ行違ひ。四方の寺々にて
は。毎夜痘児を葬る事。一寺にて二三人。或は五六人。或
は十三人に及ひたることあり。」死する者甚多き故に。
門人に命し日に聞見(ぶんけん)する所を記さしむるに。一月に
五六十人。或は八九十人。正月より極月にいたり。大数
九百余人に及べり。然れ共 遺漏(いろう)【左ルビ「とりおとす」】する所亦多かるへし。
痘瘡今も□盛に行はれ。近村へも伝染(うつり)て死する者。小