翻刻
浪人にて御座候所五平次と申 百姓(ひやくしやう)と常々(つね〳〵)心易(こゝろやすく)いたし
拙者(せつしや)怨敵(をんてき)ある様子(やうす)をよく存知(そんじ)御 家中(かちう)何某(なにがし)と
申合せ敵(かたき)の名(な)を仮り今宵(こよひ)討(うち)入候はん工(たく)み其 逆某(きやくぼう)
明白(めいはく)に告(つげ)しらせ候物有(これ)_レ之(あり)候 故(ゆへ)待受(まちうけ)討(うち)果(はた)し候半と覚(かく)
悟(こ)究(きは)め候へとも偽(いつはり)の謀(はかりこと)によりて討死(うちじに)仕候はゝ証拠(しやうこ)も
なく死後(しご)の御 疑(うたが)ひ受候もめいわくに存候て注進(ちうしん)
申入候なりとつぶさに申ければ目付 委細(いさひ)聞届(きゝとゞけ) ̄ケ
これやゝありて神妙(しんめう)成(なる)届(とゞけ)にて候 乍去(さりながら)此義 露顕(ろけん)いた
さゞるには吟味(ぎんみ)も成かたく候間夜に入候て貴宅まて
捕手(とりて)の者(もの)を差遣(さしつかは)し候べし其者共(そのものども)押(をし)入らふぜき致
におゐては悪事(あくじ)顕然(げんぜん)たり其時からめとらせ僉義(せんき)を
とげ罪科(ざいくわ)に申 行(おこな)ふべし御 帰宅(きたく)の上 他聞(たぶん)を御つゝしみ
候へと申 含(ふくめ)帰(かへ)されけるかくて夜(よ)に入て道行(みちゆく)人の体(てい)
にこしらへ捕手(とりて)の衆中(しゆじう)十人はかりかの浪人の方へ一人
二人づゝ来(きた)りて爰(こゝ)のすみかしこのくまにかくれ居(ゐ)て彼(かの)
者共(ものども)が来(く)るを待(まち)居(い)たりかくともしらで五平次が案(あん)
内にて彼(かの)侍(さむらひ)子丑(ねうし)のさかいに及(およん)で表(をもて)の戸をけはなして
五平次 真先(まつさき)に走(はし)り入けるに忍(しの)びひかへし衆中(しゆじう)一 同(とう)に
顕(あらは)れ出 取囲(とりかこ)みけれは案(あん)に相違(そうゐ)し気(き)おくれて捕人(とりて)
へかはり疵(きず)も得(ゑ)負(おふ)せずやみ〳〵と生捕(いけとら)られ両人共