翻刻!草双紙の世界

コレクション: @chinjuさんと読む草双紙

怪談御伽童 5巻. [2] - 翻刻

怪談御伽童 5巻. [2] - ページ 29

ページ: 29

翻刻

かたをば屏風(ひやうぶ)にてかこひ家はともし火をちかくた てゝ打(うち)ふしたり山伏はいかれる面(おもて)すさましく佐 野右衛門が枕(まくら)ちかく立ゐて目ましろきもせずあれど 佐の右衛門さらに何ともおもはずゆたかにいねたり 夜明(よあけ)かたになりて山伏はきへうせぬ佐の右衛門 常(つね)のごとく起(をき)ゐてけふも山 狩(がり)に出んとしけるに雨(あめ)の つよく降(ふ)れは出ずなりぬ佐の右衛門 妻(さい)にわひけるは しはらくの内御 身(み)と二人の子は外の座敷(ざしき)に寝(ね) 給へ我は思ふむねあれは今宵(こよひ)よりひとりの間に 寝(ね)んと云けれは妻女(さいぢよ)ともかくもといらへて夜(よ)に 入て家内うちやすみけれは常(つね)のごとく佐の右衛門も 寝たるに今宵(こよひ)は山伏 前(まへ)の夜(よ)よりもはやく出て つと立ゐたり佐の右衛門は更(さら)にめもやらで打ふしぬ かくて夜 毎(ごと)に出てさのへもんをおにらみたる斗にて 外には何の怪(あやしき)事もなしされど後〳〵は妻女(さいじよ)を初 家内のものとも此山伏を見ては絶入(ぜつじ)して二三日 づゝ病(やまひ)にふしけれは妻の父(ちゝ)は同 家中(かちう)田村 軍蔵(くんぞう) とて物頭役(ものかしらやく)してあれば妻は二人の稚(をさな)きを伴(ともな)ひ 行て帰らず従者(じうしや)もいつとなくいとまを乞(こふ)て皆(みな)出 さりけれはさのへもんも理(ことは)りと思ひていとま遣し