翻刻
居(ゐ)てすこしもおくしたる気色(けしき)もなし後(のち)には人も
訪(とひ)こず七とせ斗ありてさのへもん軍蔵のもとへ
行て久敷 不音(ぶゐん)を述(のべ)て妻子(さいし)に逢(あ)ひ終日(しうじつ)鬱散(うつさん)
し立帰らんとするに佐助とて十五歳に成ける佐の
右衛門の息(そく)七年 已然(いぜん)母と共にこゝに来りしが父(ちゝ)に向(むか)ひ
ていふやう某(それがし)はや十五才に罷成 嬰児(ゑいじ)のごとく変化(へんげ)
を恐(をそ)れゐたらんは世の聞へも恥(はづか)しう候へは御 供(とも)申罷
帰たく候此義度々 祖父母(そふぼ)又 母(はゝ)へも申候へ共ゆるし
なく候間何とぞ父の詞(ことば)そへられ召(めし)つれられ
下されかしとおとなしやかにいふにぞおひさき 思(をも)
はれ父はうれしくいしくも申つるものかなとて
軍蔵に向(むか)ひ永々(なか〳〵)妻子を預置御 深恵(しんゑい)の段御礼
言語に述つくしかたし伜佐介義は存する旨?た?る?
同道いたし罷帰たく候といへは母を初祖母其外まて
しゐて止(とゝめ)けれは佐助いふやうは伝へ聞 奥(をう)州の
千代 童子(とうし)は十三歳にて父貞任に随(したか)ひ大敵にあ
たり頼 朝(とも)卿は十三歳の時敗軍にて父に送(をく)れ
て数多の敵を切はらひ給ひぬ夫は名将(めいしやう)勇士(ゆうし)
ちかきころも何某(なにかし)殿は伯父の仇を十四にて即坐
に討(うち)給ひしと承(うけ給は)る其 働(はたらき)にておとる共心は