翻刻
なとかおくれ候半や是?然?御供仕罷帰候はんと
いさきよくいふに人々もしゐて止(とめ)行す母は女心の
やるせなさも人々に恥(はち)らひてとかくいはで帰し
ぬれと心はやすからすかくて佐の右衛門父子は我
家へ帰りしに死霊も待(まち)うけゐたり佐介は是(これ)を
見て刀を引ぬき打てかゝるをさのへもんおしとめ
いさゝかもいらふへからす昔(むかし)天竺(てんぢく)にて斯任(ししん)と
いふもの摩伽圓に七世つきめくり趙(てう)の何某(なにかし)は孟(もう)
竺(ちく)に十八年はなれず我朝(わがてう)の文学(もんかく)は承久(ぜうきう)の
御門(みかと)を恨み奉りし皆(みな)怨執(をんしう)深き悪業(あくごう)の
さりかたきものゝなすわさに取あふに及さる事や
いざねんとてもろ共にふしたり父子共によく寝
たるにわつといふ声(こゑ)佐の右衛門か耳に入おとろき
見れは山伏佐介か上へ乗て首(くび)ねぢ切らんと
する体(てい)也佐介は枕(まくら)にありし刀(かたな)に手をはかけながら
山伏に手ごめにあひぬさのへもん大にいかり起上り
刀をぬいて切はらひ憎しきたなき死霊かな
何条(なんぢやう)伜(せがれ)に恨みあらんや本来(もとより)己(をのれ)が邪法(しやほう)の我慢(かまん)
にほこり人を人とも思ひたらず邪(よこしま)をのみなすゆへ
天わが手をかつて汝(なんじ)が悪逆(あくきやく)を罪(つみ)し給ふ天罰(てんはつ)を